鬼面仏心
2024年3月10日号
■功徳積み週間
車を運転していると自転車や歩行者が気になり、歩いていると走る車が邪魔になる。人間とはどうしようもなく自分中心な生き物だ▼祈祷の時、僧侶が木剣を手に大きな声で唱える『祈祷肝文』。その最初の言葉が「元品の無明を切る大利剣」だ。では「元品の無明」とは何だろう。仏教では「根本煩悩」と呼び、人間の持つもっとも根源的な「我欲」という「自己中心な心」のこと。その自己チュウな心をお題目の「大利剣」で切る、と祈るのだ▼ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとパレスチナなどの戦争や紛争、戦闘。中国と台湾との緊張関係。世界中がきな臭く、危険な感じがしてならない。紛争の原因はいろいろだ。中には民族や宗教の違いからくる長い憎悪の歴史が根底にあることも。共通しているのは、双方が他を省みず、自分の正当性や正義を主張し、問題解決を一層困難にしていることだ▼自己チュウになると、自分の周りに壁ができる。そして親も子も家族も見えなくなり、人間関係が壊れ、幸せも離れてしまう▼お彼岸とは「此岸」に生きるわたしが、一時「彼岸」の世界にタイムスリップし、そこから自分を見返すこと。そして自己チュウな心をお題目の利剣で切り払い、ご先祖をはじめ多くの「いのち」に感謝と報恩のお返しをする、幸せづくりのための「功徳積み週間」なのだ。(義)
2024年3月1日号
■仏さまのDNA
住職不在で荒れていた時代もあったわが寺にとって、寒修行の浄財は貴重だ。仏像を一体一体修復する費用に充てたり、トイレを順次和式から洋式に替えたり、暖房・空調器具の購入、事務機の整備、畳替えや、襖・障子の張り替えなど20年にわたり年度の目標を立てて大切に使わせてもらってきた▼今年の寒修行の最中に総代から「コピー機の買い換えが今年の目標だったが、日蓮宗新聞の報道によると、能登のお寺が大変らしい。今回は自分の寺のことより、いま困っている能登の義援金に回しましょうよ」と提案があった▼思い出したのが阪神・淡路大震災後の総代世話人会で、当時の筆頭総代が「うちのお寺は足元をしっかり見据えて、分相応、実用性重視がモットーだが、今回は良い格好をしましょう」と義援金を目標に掲げたできごとだ。良い格好をしようというのは、彼のみんなをまとめるための掛け声だった。この檀徒側から自発的に出た言動が、その通り実行されたことが、私は嬉しかった▼この2ヵ月間で良い格好をしようと呼びかけた元総代2人を霊山浄土に送った。しかしながらそのDNAは現任の総代・世話人たちに脈々と受け継がれていることを知った。喜んでことをなし、なしたことをまた喜んでいる人は幸せだなと、しみじみ思う。住職の私はいつも檀信徒に育てられている。(雅)