鬼面仏心

2014年11月20日号

歴史学者によると、安土桃山時代から江戸時代までが近世

歴史学者によると、安土桃山時代から江戸時代までが近世、明治維新以後を近代、昭和20年8月の太平洋以後を現代というそうだ。今年は現代になって69年目ということになる▼近代から現代になり、私たちは多くの恩恵を手に入れた。それは単に豊かさや利便性だけではない。自由、平等、権利、個人といった、それまでの日本人の生き方を根底から変える価値基準の導入だ▼戦後「古い上着よさようなら」という流行歌があった。この歌に象徴されるように、現代という時代は古い価値観の否定と破壊から始まった。それはとても新鮮で魅力的なことだった。それを批判する人は社会的に葬られた▼さて現代になって69年。日本はどうなっただろう。自分勝手なわがままが「自由」。立場や役割の違いさえも無視し、何でも同じという「平等」。さらに義務のない、自己中な要求ばかりの「権利」。家も地域も国も否定した「個人」の尊重は、利己主義となり、ついに無縁社会や孤独死という社会問題に発展。またこれまでなおざりにしてきた国は、国境や国防という新たな国際問題に。恩恵と引き換えに、「現代」は多くの大事なものを失ったのでは▼「世、末になれば人の智はあさく仏教はふかくなる」と日蓮聖人は説かれた。捨ててしまった「古い上着」。そのポッケトの中の、捨ててはいけないものを取り戻すことが大事なのでは。(義)

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2014年11月10日号

ふと気づいた。お世話になっているお医者さんは

ふと気づいた。お世話になっているお医者さんは圧倒的に女医さんが多い。内科・小児科・耳鼻科・歯科・産婦人科そして眼科。わざわざ選んだわけではなく、たまたまみんな女医さんなのだ。その多くは医師・妻・母の三足のワラジを見事に履きこなしていて、同性の私が見ても惚れ惚れするほど格好いい。だが目に見えない苦労は計り知れない▼働く女性の現状は厳しく、子供が熱を出せば急きょ仕事を休んで看病するのは母親。フルタイムで働いていても、夕食の支度から洗濯・掃除も女性…という家庭は多い。夫婦で仕事を持っているのならば、家事育児も〝半分こ〟が当たり前だと思うのだが甘いらしい。時代は変わったとはいえ、家族やコミュニティの助けなしに女性が仕事と家事を両立させることは本当に難しい▼男女の役割は時代とともに変化してきた。家庭によっても形は様々だが、夫婦協力で家庭を作り上げる重要性は変わらない。男は羽のごとし、女は身のごとし。羽と身とべちべちになりなば、何をもってか飛ぶべき。大切なのはどちらが何を担うかでなく、お互いがなくてはならない存在だと気づき、尊重すること。お互いができることをやり、助け合ってこそ本当の夫婦だ。多くの鳥が力強く羽ばたく仏国土を目指して▼今夜この原稿を抱えた私の為に美味しい夕食を用意してくれた住職にも、心から感謝しなければ。 (蛙)

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2014年11月1日号

遺言で献体(医学研究として死後の体を提供する)した

遺言で献体(医学研究として死後の体を提供する)した檀家さんの葬儀で、医師に、生と死の宗教的意義、とくに仏教の立場からと問われたことがあった▼適切な説明ができなくて、1744年に日本で初めて訳された人体解剖の本である『解体新書』の話をした。それまでの漢方医が知る内臓は、実態を持つものではなく、気の流れの一分枝に過ぎなかった。生きている間だけが医学の領域であり、死は宗教の領域であった。解体新書に始まる病理解剖は、身体の内部にメスを入れ、病巣を特定し、死に至る経過を目に見えるように明らかにするための解剖である。生・老・病・死の連関のなかで、死の側から見る眼差しは、生の側から見る病因論よりも、機械的であり、数値的であり、雄弁であった。死が単なる生の終わりを意味した時代から、病理解剖の確立により、死は死を基点として生を捉えるという積極的な意味を持つものに変わっていったのである▼仏教の生を語るときには死を通して語り、死を語るときには生きるということを通して語る「生死一如」という言葉を彼に伝えた▼科学技術の発達により医学の進歩は、さまざまな検査で数値化され、機械化も進んだ。身体の外側からのアプローチは進んだのに、死への不安や恐怖と戦う内側(心)へのアプローチは、むしろ後退しているように思える。宗教の出番である。ともに歩みたいと話したが、力不足は否めなかった。(雅)

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