鬼面仏心

2017年1月20日号

アメリカには「地上でもっとも恐ろしい生きもの」

アメリカには「地上でもっとも恐ろしい生きもの」が展示された博物館があるという。何とそこには大きなカガミが置かれているだけ。つまり地上最凶の生きものとは、カガミの前に立つ私たち人間ということだ▼戦後72年。私たちは自由・平等・個人・権利を旗印に、経済復興第一に生きてきた。その甲斐あって豊かで便利な社会になった。しかし気がつくとそこは「縁」よりも「円」が大事にされる冷たい無縁社会に。無縁社会とは「縁」を説く仏教とは対極の世界だ▼トンチで有名な曽呂利新左衛門に秀吉が尋ねた。「この世で一番恐ろしいものは何か」と。新左衛門は即座に「それは人間です」と答えた。権謀術数渦巻く戦国の世を生き抜き、関白太閤にまでなった秀吉。人間の恐ろしさはイヤというほど知っている。深く肯いた秀吉が「ではこの世で一番愛おしいものは」と尋ねた。しばらく考えていた新左衛門は「それも人間です」と答えた。秀吉はその答えに深く深く肯いたという▼お釈迦さまは法華経に「人間仏子」と説かれた。そしてこの娑婆世界を仏国土とすることを願われた。「火の車/造る大工はなけれども/己が造りて/己が乗るなり」という古歌がある。無縁社会を造ったのも私たち、仏国土を造るのも私たち。欲に狂った地上最凶の人間から仏子としての自分に目覚め、この世を浄土に変えるために生きなくては。  (義)

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2017年1月10日号

週4回デイサービスに通っている父。

週4回デイサービスに通っている父。お迎えの乗り合いの車に、可愛いお婆ちゃんが乗ってくる。ゆっくりと車に乗り込む体の不自由な父の様子を、いつもニコニコしながら見ている。見送る私たち家族にも笑顔を絶やさない▼さて先日、夫婦ゲンカをしてしまった。どんより重い気持ちで玄関を開けると、デイサービスの車が止まっていた▼
そこにはいつものように笑顔で手を振るお婆ちゃんの姿。私の荒んだ心を知ってか知らずか、とても元気に手を振ってくれている。思わず私も笑顔になって手を振りかえすと、お婆ちゃんは頷くように笑った▼言葉はない。でもその顔を見ているだけで、真っ暗闇の心に晴れ間が広がっていった。晴れ間は意固地になった心を温め、「ごめんね」と素直な言葉を言わせてくれた▼お婆ちゃんの笑顔は、太陽そのもの。全てを包み込む優しい笑顔は、周りの人の心も優しい気持ちにさせてくれる。何も持っていなくてもできる「笑顔」のお布施、施す人も施された人も幸せになれる▼90歳の誕生日を迎えた父に欲しい物を尋ねると、「なにもないなあ」と言う。大好物のお寿司を用意したが、「じいじと食べると美味しいね♪」と笑う孫の笑顔が何よりのプレゼントになった。「親によき物を与へんと思いて、せめてする事なくば一日に二三度笑みて向へ」。簡単そうでできないこと。今年は笑顔を実践していこう♪(蛙)

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2017年1月1日号

壁に打ち当たった経験はありませんか?

壁に打ち当たった経験はありませんか? 人間が力の限界を思い知らされた時「人生の壁」を感じるという。この壁をどう乗り越えればいいのだろうか▼台風の後、屋根に登った。ひょいと下を見て「ああ高い所に来てしまった」と思った瞬間から、足が固まり一歩も動けなくなった。無理に動いたら足を踏み外し、大怪我をしていただろう。仕方なく屋根に寝そべり空を見た。流れる雲を見ているうちに心が落ち着き、1時間後、地上に降り立った。▼国同士の関係も然りである。「12月8日は何の日ですか?」と問えば、優等生の仏教徒は「釈尊成道の日」と答えるだろう。ビートルズのジョン・レノンが殺された日だと答える世代もいる。戦争を知っている世代は、日本がハワイの真珠湾を攻撃して太平洋戦争が始まった日と答えるだろう。その真珠湾を日本の安倍総理大臣が年末に訪問した。去年の5月、米国のオバマ大統領が原子爆弾投下によって壊滅的打撃を受けた広島を訪問し献花した。思えばこの時までに70年以上の時の流れが必要であった▼太平洋戦争が始まった碑が釈尊成道の日、そして終戦が8月旧盆の15日である。この70年間、どこのお寺でも盆法要に戦没者の慰霊が営まれた。日米関係は、1つの壁を乗り越えたのかもしれない。いや壁などなかったのだ。なぜなら壁は人間が勝手につくりあげたものだったからである。(雅)

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