論説

2024年2月1日号

合掌という非暴力

令和6年の幕開けから早1ヵ月。今号が読者各位の手元にあるこの瞬間、あなたはどのようにこの1ヵ月を振り返るだろうか。
元日の能登半島で起こった地震と津波による大規模災害、翌2日に発生した羽田空港内での航空機衝突事故、そして引き続き報道されているロシアのウクライナへの侵略戦争、イスラエルのガザ地区への蹂躙、この原稿を書いている1月10日現在で、報道各社の紙面はこれらの最新情報で埋め尽くされている。
いずれの記事も痛ましい数字を伝えている。能登半島地震で落命された人は206人(内災害関連死8人)、石川県の安否不明者56人(いずれも1月10日現在)、衝突事故では海上保安庁の搭乗員5人中4人が死亡した。それらの罹災状況を列挙するなど、とても本紙面では足りない。わずかな喜びといえば、瓦礫の中から救出された被災者がいたことや、日航機の乗客乗員379人全員が無事であったということである。
自然災害は発生してから初動72時間が生存確率の点からもっとも重要であり、誤ることのできない、判断が遅れてはならない時間帯だということは周知のことだろう。たまたま知り合いの医師から、3日から9日までの1週間、能登に緊急医療支援スタッフとして赴いた経験を聞けた。報告されている状況よりも厳しい環境下で、避難している人たちの心身状態が十分ではないことを一番危惧していた。そして、生活に必要な飲料水や暖房具、着替えなどの衣料品、温かい食事の提供など、あらゆる物資の供給が足りなかったり、そうかといえば救援物資はあるものの運搬が滞っていたり、そして医療活動の困難さは「現地に行けないこと」が、一番のもどかしさだったと話してくれた。道路の破損が酷い、悪天候で海路も空路も使えない。空輸用のヘリコプターは自衛隊機の輸送力が一番だが、着陸地の確保が難しく、民間ヘリコプターは小回りが効くが風に弱く不安定など、能登の自然が救援を拒んでいるとさえ感じた。抗うことさえ許されない自然との向き合い方はあるのだろうか。
しかし、人災は事情が異なる。事故も含め、あらゆる紛争や人権無視・暴力・ヘイトスピーチ・差別といった他者への蹂躙行為は防ぐことができるものだと、タイ人のエンゲージド・ブッディスト(社会活動仏教者)、ノーベル平和賞の候補者にもなったスラク・シバラクサ氏はいう。
「非暴力・傾聴による対話の継続・あらゆる方法(方便)」を駆使して、起こりうる最悪の事態を回避する努力を続けられれば、事態の発生は防げるのだと主張する。最悪の事態が起こる前が大切で、波濤のない水面を見て、未来の一番酷い光景を思い浮かべて行動する能動的非暴力が最も重要だという。
13世紀の日本で、スラク氏の主張の如くに行動した人物がいた。『妙法蓮華経』の教えをひたすら実践した日蓮聖人、その人である。聖人は、起こりうる最悪の事態を預言して、防ぐための手立てを示していた。正しく心を継続して保ち、皆が助け合う社会、「立正安国」の実現である。
天災や人災、一旦、事が起きれば対処は難しく、容易な解決は望めない。現代の状況がまさにそれである。明治の宗教学者の姉崎正治は、日蓮聖人を「仏教の預言者」と讃えた。
日蓮聖人は、今の状況にため息をついているだろうか。否、もっと行動せよ、諦めるなと叱咤するだろうか。事は起こっている。失われた命には合掌の祈りを、未だ到来していない災悪には防ぐ手立てを起こそう。
(論説委員・池上要靖)

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2024年1月20日号

能動・積極的な生き方での幸福の希求

新年早々の能登半島地震や羽田の航空機事故など不安を煽る辰年になりましたが、辰はことの始まりとその力を持ち、天地の水を司るといいます。きっと龍神さまがこの不安を洗い流してくれるものと信じます。
災害があると33年前の雲仙普賢岳災害を思い出します。当寺は遺体の検視、安置と救援の最前線に立つことになり、自衛隊、警察、メディアなどへの対応に右往左往しながらも何とか乗り切れました。その後の復興に向けた全国からの支援や奉仕活動には今でも感謝でいっぱいです。
その後の東日本大震災など相次いだ大災害でも多くの人びとが苦しみました。改めて能登の被災者の苦難に心が痛みます。実はひと月前、羽咋市本山妙成寺や気多大社などを参詣したばかりで、余計に被災地の状況が目に浮かびます。犠牲者の冥福を祈り、多くの被災者・被災地の早い復興を祈念するばかりです。
しかし、この能登半島地震の被災者や羽田の日航機の乗員乗客の整然たる避難の姿は、日本人の精神性の高さを示していると感心するとともに安心します。外国メディアがこぞって奇跡と称賛しますが、私たちにとってはいつもそれが当たり前としていかなくてはなりません。
日本人は古来、度重なる自然災害など、不幸にして避けられない国難に果敢に立ち向かい、立ち直っては今日の国家社会を築いてきました。800年前の鎌倉時代がまさにこの天地騒乱の時で、日蓮聖人は不惜身命の法華経信仰と弘通による国家安穏を願われたのです。「我れ日本の柱、眼目、大船とならん」(『開目抄』)はその心意気を示されています。
国家の危機に出現された日蓮聖人は「災来るも、変じて幸と為らん」(『道場神守護事』)の「変じて」は、法華経経文から受け身の変化ではなく、能動的、積極的な生き方による幸福の希求と進化であると教えられています。能登の皆さまも1日も早く前向きに「災害変じて幸いなる」日々を送られることを祈念します。
僧侶や寺院はその先頭に立たねばなりませんが、近年の恵まれた生活でその意識を鈍化させてしまった私たちにはそのリーダーシップを発揮できる人がほとんどいないのが現状であり、残念です。
そんな中で昨年数少ないリーダーだった人材を亡くしました。長崎県西海市實相寺の梶原北天上人です。宗内では宗務所長や宗会議員で活躍し、九州の西の果てから宗門改革に奮闘していましたが、無念の内の遷化でした。しかし宗外のことでは素晴らしい業績を残しました。上人の優しい眼差しは多くの人たちを魅了し、その交際は広いものでした。政治・経済・文化・スポーツ・音楽・芸能など一流の人たちとの交流は地域文化の発展に多大の功績を残したのです。こんな坊さんはまずいません。ことに立川談志、中村八大、永六輔さんなどとの長い付き合いは「田舎だからこそ最高の音楽や芸能を体感しなければ」と、地方ならではの濃密な活動を繰り広げました。私も手伝いながらおこぼれに与かり、天才たちの芸はもちろん人柄に触れて、人間学の勉強を楽しみ吸収しました。「今頃は霊山で八大さんや談志師匠と大宴会をやっているはずだ」と北天上人を知る人はみんなで話しています。
私たちもいずれ参加できるのでしょうが「娑婆即寂光」この私たちの娑婆世界こそがその会場であることは忘れずにいましょう。皆さまも一生に何人かは出会えるはずの人生のナビゲーターを発見し、大事にして下さい。 (論説委員・岩永泰賢)

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2023年12月20日号

いのちに合掌 一日の命は三千界の財にも過ぎたり

■人として生まれるは難し
経前や唱前に唱える「礼讃文」がある。
「この世に人と生まるるは難く、み仏に遇い奉ることまた難し。いま幸にして、この受けがたき人身を受け、あいがたき法華経に遇い奉る。つつしんでご本仏に帰依し奉る」。
長年、消防団活動や防犯活動に従事してきた功績が認められて、当山の護持会長が今年の春の叙勲の栄誉に輝いた。その記念に、当山の参道にこの礼讃文の碑を建立してくれた。
この礼讃文の原典は、日蓮聖人の『寂日房御書』にある。
日蓮聖人は、末法にお題目を弘めてこの人類世界を平和な仏国土にするために、この世に遣わされた上行菩薩のご再誕である。ご自身で世界一のお題目の行者といわれている。
私たちも人として尊いいのちをいただいて「世のため、人のため、世界平和のためになって天命を完うし、幸せな人生を送って来い」といわれてこの世に生を受けた。
この礼讃文の記念碑を拝して私たちは人として生まれてきたいのちの尊さを思い、改めて世のため人のため、世界平和のために生きなければならないと、思いを新たにしたことである。
■殺してはならない
いま人類世界では、あちこちで戦争が起きている。
毎日毎日死者の数が伝えられ、戦災の中で、悲惨な生活を余儀なくされている人びとの姿も報道されている。
幸せに生きなければならない人びとが、集団的に殺されたり、危機的状況の中で生きなければならない戦争はしてはならない。だから仏陀は「殺してはならない。殺させてはならない」と戒められた。(ダンマパダ130偈)
第2次世界大戦で、若い人びとを始めとして、多くの戦争犠牲者を出した日本は、敗戦の憂き目を体験する中で、「2度と戦争はしない。核兵器はこの人類世界から廃絶しなければならない」と誓った。それが日本国憲法第9条の戦争の放棄である。
しかし日本1国だけで戦争の放棄は守れない。世界中の国々が、こぞって戦争の放棄をしなければ、人類世界の平和はこない。だから日本国憲法は「世界の宝」なのだといわれる。それだけに日本の使命は重いし、その使命を強く自覚しなければならないと思う。
■立正世界平和の祈り
私たちお題目を唱える者の宗門の宗是は「立正安国」である。今や世界は1つである。立正安国は立正世界平和であり、お題目を唱える私たちの信行目標も世界平和である。
世界が平和であってこそ、日本も平和、各国も平和である。この地球世界は、法華経のご本仏が司る世界国土である。世界国土が平和であってこそ、人類のそれぞれの「いのちの尊さ」が守られ、地球上に仏国土が顕現される。そこには人類1人ひとりのいのちが、三千界の財にも過ぎて輝いてくる。その世界を目指せと、日蓮聖人は「一闡浮提第一のご本尊」をお示しになられた。
その世界平和のために、私たちにはお題目の祈りがある。お題目を唱えているだけでは平和は来ないという人がいるかもしれない。しかしそんなことはない。
お題目は、宇宙の大霊ご本仏さまの大慈悲心であり、自在の大神力である。そのお題目で、世界を平和へと導いてくださると信じることだ。
『立正安国論』に「汝早く信仰の寸心を改めて速やかに実乗の一善に帰せよ。然れば即ち三界は皆仏国なり。…十方は悉く宝土なり」とある。
(論説委員・功刀貞如)

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新年のご挨拶。

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    中尾堯著
    日蓮宗新聞社
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  • 日蓮聖人―その生涯と教え―

    日蓮宗新聞社編
    日蓮宗新聞社
    定価 826円+税

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