鬼面仏心

2020年10月20日号

■発酵・熟成

 どんなに急いでいても、悪天候の中を飛行機は飛べない。同様に、待つほか為す術がないことは多々ある。雨の日の洗濯もそうだ。しかし今では乾燥機能付き洗濯機により晴れるのを待たずに洗濯ができる▼近代社会は効率という名の下に、「待つ」ということを克服しようと進歩してきたと言っても過言ではない。そして今やただ待つということは時間の浪費、悪徳だとさえ考えられるようになってきた▼たしかに、待つことが苦手な人は少なくない。赤信号をゆっくり待てない人、注文したものがすぐに出て来ないと文句を言う人など、イライラが蔓延し社会全体が刺々しくなってきたと感じることが間々ある▼しかし待つということは、本当に何もしないということなのだろうか。たとえば酒や醤油などの醸造では、麹の発酵を待つということは、何もしていないように見えても熟成を見守る非常に重要な期間である。子育てもそうだ。どんなに親が頑張っても、子ども自身が成長するのを見守り待つほかない▼久遠の本仏も、仏子である私たち衆生を救うため、待ち続けて下さっている。何もしていないのではなく、私たちを見離すことなく、たえず見守って下さっているのである▼コロナ禍の今、何もできないと嘆くのではなく、待つ=自身を練り上げ、その熟成を見守るという大事な時期だと思える生き方をしたい。(直)

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2020年10月10日号

■来年こそ 

 涼やかな秋風を感じた先日、ふと思った。今夏は家のなかでの嫌われ者の昆虫(G)を見ることが少なかったのではないかと。周囲に問うと、多くの人が同意してくれた。猛暑が続きGには好ましい気候だったのになぜ? 科学的根拠などないが、何となくコロナウイルスの影響かと勘ぐりたくなってしまう▼この夏は各地で伝統的祭事が中止になった。気温こそ上がったが、人間の発する熱量が大幅に減少した「冷夏」だったといえはしまいか。人間の生活圏の中で生きる小さな虫がこれを感じ取ったと見るのは考え過ぎだろうか▼法華信徒の発する莫大な熱量を感じさせる池上本門寺のお会式。この催しも万灯練り供養の行列が中止となってしまった。毎年一晩に30万人ほどの人出で賑わうこの行事に、ソーシャルディスタンスをとれというのは無理な話だ。マスクをしながら纏を振り、掛け声が規制されては、それこそ気勢が上がらない。そう考えればやむをえない判断だが、この晴れ舞台のために纏の訓練に励んだ講中の無念を思うとやはりやるせない▼だがこの無念を来年の熱へと転化させるのが真の法華ではなかろうか。生きているこの世を明るく元気に。そう願った日蓮聖人の熱は太陽のように大きなものだった。その熱は日蓮聖人降誕の日に始まる。そして来年は以来800年の節目となる。その来年に信徒として発する熱を蓄える期間としたい。(十)

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