鬼面仏心
2020年8月20日号
◆月面着陸
昔、月はかぐや姫の世界だった。ところがアポロ11号が有人月面着陸を果たしたことで変わってしまった。その日、世界中の人がテレビの前で歴史的な場面を見ることができた。筆者の友人などは英和同時通訳なるものを実体験し、感動のあまりついには通訳の道を志すようになった▼宇宙船からのテレビ中継も今ではごく当たり前のことだが、月面の映像が瞬時に送られて来るなんて、誰も思いもしなかったことだ▼かぐや姫の世界が人間の手に届くようになってしまったのは寂しいことではある。しかし想定外のことが、ある日を境にごく当たり前の日常になるのは珍しいことではない。月面着陸中継のあの日、筆者はまさにその分岐点にいたのだと思う▼今コロナ禍にあって同様の思いを持つ。必要に迫られてではあるが、不要不急の外出自粛・ソーシャルディスタンス・マスク・度々のうがいと手洗いなど神経のすり減るような異常とも思える毎日が、ごく普通の日常生活になりつつある▼そんな時代の潮流にあって、お盆の帰省やお墓参り、精霊棚など代々に伝えられてきた習慣や文化が忘れ去られていくのではないかと気にかかる▼新しい生活様式へと単純に切り替えるのではなく、いいものはいいと価値の再確認をし、英会話に励んだ友人のように、これをバネに新たな道を切り開いていくことを忘れてはなるまい。(直)
