鬼面仏心
2024年6月1日号
■自浄其意
年を取ると怒りっぽくなるという。そのせいか最近はいろんなことに腹が立つ。そもそも人間の善意や常識で成り立つ無人の販売所。監視人のいないのをいいことに無断で品物を持ち去る人。ベルトに載って運ばれてくる回転寿司。他人の注文品を勝手に食べたりなめたりする幼児的犯行。さらに地位を利用して裏金を手にする政治家。1人暮らしの高齢者や女性という弱い人ばかりを狙う詐欺や押し込み強盗▼「浜の真砂は尽きるとも、世に盗人の種は尽きまじ」といった石川五右衛門。その盗人さえもあきれるような、卑怯・卑劣な悪人が増えた▼今どき「恥」とか「名誉」「いさぎよさ」「武士の一分」など、時代遅れなのはわかっている。それでもなお、私利私欲に溺れず「浄く」生きる人には「尊さ」を感じる▼宗派を超えて仏教が大切にする『七仏通戒偈』というお経文に「諸悪莫作、衆善奉行、自浄其意、是諸仏教」(もろもろの悪をなすことなく、もろもろの善をなして、心を浄くせよ。これが諸仏の教えである)とある▼悪をとどめて善を行うのは、法律があるからではない。自分の心が綺麗になり、気持ちが良いからで、この「自浄其意」こそ、仏教の真の目的なのだとお釈迦さまは説く▼しかし世の大勢は、「不浄」であっても「得」な生き方を是としてはいないだろうか。そう思うとますます腹が立つ。 (義)