鬼面仏心

2024年10月1日号

■共に生きる

この上なく巧みである様子を「絶妙」という言葉で表す。一流料理人の塩加減など、真似のできないほどの技を表する時などにも使う。ところでこの絶妙の塩加減だが、塩何グラムではなく、ひとつまみとか少々などと表現される▼素人には難しいこの絶妙の加減を、だれもができるようにと数値化が試みられてきた。たとえば炊飯器だ。水の量や火加減など匠の技を数値化して機械に落とし込み、絶妙なご飯の焚き加減を実現したものである。同様の手法は料理ばかりではなく、ものつくりから芸術に至るまで、人間の営みのあらゆる分野で使われており、その恩恵は計り知れない▼ただいかに技術が進んでも、越えられない一線がある。それは人間が肌で感じる、いわば空気の共有とでもいうものである。鮮明に映し出された大画面、限りなく生の演奏に近い音源。今やコンサート会場に行かなくても手軽に茶の間で音楽や演劇が十分楽しめる。しかしそれでも、ライブに行く人は多い▼機械という媒体を通してではなく、直に人と人との関係性に触れ、共にその場に生き、肌に触れる空気を共有しているという生の感覚・思念は、機械では到底得ることはできない▼人はこの地球上のすべての存在と同じいのちを生きている。社会と人との疎外感が感じられる昨今、いのちの共有ということを改めて考えなくてはならない。       (直)

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