鬼面仏心

2019年5月20日号

元号に興味津々

ドキドキで迎えた新元号。久しぶりに日本中が1つになった気がした。元号が「令和」に変わって20日。私たちの日常は何も変わらないが、しかし、何か世の中の全てが新しくなったような気がするから不思議だ▼ところで元号選定で感じたことは、日本人の名前や文字に対する関心の強さだ。カタカナ語や横文字が氾濫する時代。若い世代は漢字離れで無関心なのではと思っていたのだが、年齢を超えての関心の強さに嬉しい驚きを感じた。「令和」というたった2字の漢字。その2字の出典や意味に、これほど日本人が関心を持っていたことを忘れてはならない。というのも私たち僧侶は、お檀家の人に「戒名」を付ける立場だから▼近年「戒名はいらない」という人が増えているという。その理由は、信仰心の欠如、高額な戒名料、死んでからいただくことの無意味さ、さらに戒名の意味が分からないなど▼信仰のない人にとって戒名は無意味。その意味では信仰の育成が最優先課題といえる。同時に戒名とは何か、なぜ必要なのか、その意味は、といったことを分かるように説明することが大事だ▼戒名とはブッディスト・ネーム。元号にこれほどの関心を示した日本人。ましてあの世に持っていく自分の信仰上の名前である戒名。誰だってその意味を知りたいはず。それを分かるように説くことが布教・教化の第1歩なのでは。(義)

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2019年5月10日号

■東海道の車窓から

仕事の帰り、東海道線の2階建てに乗った。なぜならいつもと違う景色が見られると思ったからだ▼人格を形成する1つに環境がある。小生の身長は180㌢だが、1㌢高くても低くても世界の見え方が違い、人格は少なからず影響を受けていただろう。2階からは、いつも満員電車に押し込まれながらも横目で見ていた景色とは全く違い、この駅のホームの上にまた別の鉄道会社のホームがあったのか、などと発見も多かった▼「世の中には絶対はない」と言う人がいる。確かに人間や自然は相対的で何もかもが移ろいゆく。例えば好きとか嫌いも相対的なもので、ある人にとっては好き、ある人にとっては嫌いとなる。もちろん同じ人でも昨日は好き、明日は嫌いとなることもある。しかし、相対的な事柄だけで人間を形成しても良いのだろうか。相対的なものを全て受け入れることができるならそれはもう仏陀であろう。たが、人間の心はいつも揺れ動く▼相対の反対にあるのが絶対という言葉だ。簡単に言えば、揺るぎない価値観で、それは日蓮宗徒にとって「釈迦牟尼仏への帰依」=「浄仏国土顕現=立正安国の実現」である。そこを生きる営みのなかで外さないことが、より人格としての芯になっていく。またそれが、相対を受け入れる心となっていく。仏と成ることを目指すとはこういうことかもしれない。(緑)

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2019年5月1日号

再建とひとつ心

4月15日、パリのノートルダム寺院が炎上した。崩れ落ちた尖塔、取り囲む群衆の涙を流し祈る姿に、衝撃を受けた。「フランス国民にとって、信仰の象徴であり、心の拠り所だったのでしょう」。ニュースを見ながら話しかけると「ウチのお寺も焼けたことがありましたよ」と檀家に返された▼改めて自坊の歴史を調べた。念仏の盛んな地で題目講を結成し、江戸時代から細々と続いてきた信仰の灯が燃え上がったのは、2度の火災のお蔭だったのかもしれない▼明治8年は、日蓮宗の総本山身延山が灰燼に帰した年である。その年、講中の集会所が火事に遭っている。同14年宗祖六百遠忌に向けて、日蓮宗の象徴・身延山の復興、そこから始まる宗門運動に歩調を合わせるように、自坊も時の住職と檀信徒が力を合わせ、11年寺院創立、13年移転・本堂建立・寺号公称している。しかし18年、村を焼き尽くす大火で類焼。被災している檀家が多かったが、翌年仮復興するも、心労のため住職は遷化。悲しみを乗り越え、新住職と檀信徒が一体となって本堂を再建した▼身延山も自坊も困難な状況が、かえって人びとの結束を生み、再建したのだった。ノートルダム寺院がそうなることを信じたい▼移民や経済格差など、フランスは今、社会的にも政治的にも分断されている。再建することで国民が1つになれたらと祈るばかりだ。(雅)

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