鬼面仏心

2013年2月20日号

「年を取って、集中力が…」

「年を取って、集中力がぐっと増してきた気がする」還暦過ぎらしき人の声が聞こえる。「ほうなんでそう思うんだね?」▼当方も思わず聞き耳を立てる。「いや、昨日もゴミを出そうと持って出たんだけど、歩きながら最近はゴミも贅沢なものになってきたなと考えているうちに、金融緩和や消費税率にまで思いが進み、気がついたらゴミ置き場を通り過ぎて、町内の外れまで来ていたんだ」集中しているのか散漫になったのか、思わず苦笑してしまった▼なるほど、年を経ると思索が深くなるという話はどこかで聞いたような気はする。でも逆に加齢と共に、二つ三つのことを一度にこなすことができなくなっていくともいう。だから車を運転しているとき、真剣に物思いにふけったりしてはいけない。ただし、これは年齢に関係なく、若くても気をつけなくては、通り過ぎたからといって、後戻りするだけではすまない大事故になりかねない▼誰しも真剣に取り組むとき、肉体的にも精神的にも視野が狭くなるものだ。いま何をすべきか、何のためにするのか。そんな視点をもって自分を見つめることが大切だ▼信仰もまた然り。一人自分だけのためではなく、周囲の人々や親兄弟、ご先祖と、縁あるすべての人々が、ともに悦びを分かち合うことができるようにと願うのが、法華経の祈りである。そんな祈りが世界に広まることを願う。(直)

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2013年2月10日号

いつもの窓際近くの

いつもの窓際近くの椅子に座り、背中にポカポカと暖かな陽射しを受けてする読書は何物にも換え難い。この冬の時季だから余計そうだ。ゆったりとできる自分専用の居場所だ▼江戸時代末期の日蓮宗教学者に金沢立像寺の優陀那院日輝師がいる。私塾充洽園を開き幾多の傑出した人材を輩出している。その中の一人に日蓮宗初代管長の新居日薩師もいた。ある時、日薩師は日輝師に「先生、あの者は日ごろより、同学僧に盗みを働いている不届きな者です。あんな者をここに置いていては先生のお名前に傷が付きますし、自分達も落ち着いて勉強していられません。直ちに追い出した方がいいと思います」と進言した。すると日輝師は「そうか。ならばお前が出て行くがいい。お前ならば、どこに居ても勉強も修行も出来るだろう。だが、あの者はここでなければ勤まらん。ここしか居場所はないのだよ」と教え諭したという▼法隆寺宮大工棟梁の西岡常一さんが「切る」ということについて、「いい面を二つ取ることです。きれいに平らに切れば、切り取られた側も、残った側も自然といい面になる。『切る』とは、美しいいのちを二つ作ることだ」と。二つとも、どちらも殺さず、生かすことの大切さを教えている▼いじめ、貧困、自殺、犯罪、そして教育、スポーツの問題の根本は人の心の問題だけではなく、家庭で、社会で、自分の居場所があるかという問題だ。(汲)

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2013年2月1日号

世界的に携帯電話の普及が

世界的に携帯電話の普及が進んでいる。会話だけでなく情報入手も手軽になって、革命や民主化のきっかけになることもある。一方で犯罪に利用されるというデメリットも併せ持つ▼日本で電話機が一般家庭でも使われるようになったのは昭和30年代である。裕福な家が、電話線架設の費用を負担していた。電話機のない人はそのお宅まで行って借りるのだ。電話がかかって来たときにはわざわざ呼びに来てくれた。電話が済んだ後で井戸端会議になることもある。町内が一つの家族のような時代だった▼あれから五十余年。電話機は個人がポケットに入れて携帯するものになった。科学技術の進歩を有難いと思う反面、恐ろしささえ感じる。壁掛け式電話機の発電機を自分で回してカーボンマイクに向かって声を張り上げていた時代からダイアル式黒電話に。そしてプッシュホンへと少しずつ進歩してきたがそれは経済の発展とリンクしていたし、使う側の知識もそれなりに進歩していた▼機械の仕組みは知らなくても良いのだろうが、功罪について考える時間もないまま振り回されているのはどうか。気がつけば、すぐ横にいる友人や家族、時には乳飲み子までを無視して携帯の画面に熱中する社会になっていた。電車の座席に一列になって座る乗客が全員、携帯電話をいじっている風景は異様だ。目と目を合わせる会話のない生活が良い社会をつくるはずはない。(寮)

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