鬼面仏心

2012年12月20日号

良いことをしたといって

良いことをしたといってご褒美をもらうのはとてもうれしい。自分のしたことが認められたと誇らしい気持ちになる。ところが、同じことをしてきたのに、他人だけがほめられると良い気持ちはしない。なぜあの人だけが認められるのかという思いがふつふつと湧いてくる▼逆に悪いことをして非難されたとき、同じようなことをしている他人が誰からも注意されることなくノウノウとしていると、これも気にさわる。不公平な思いというものは、子供も大人も歳に関係なく心に波風を立てるものだ▼そんなとき、有頂天になっているあの人をぎゃふんと言わせてやりたい。あるいは、偉そうなことをいう世間を見返してやりたいという思いが心に浮かぶ▼ただ、鼻を明かしてやりたいという思いが向上心につながるならば悪くはない。しかし世間をあっと言わせたいなどということになれば考え違いも甚だしい。これが一般個人を越えて、政治家の考え方となり、国のレベルにまでなっているのが今の世ではないだろうか。ただ世界を牛耳ってやりたいという政治家や国々を見ると先行きの不安を感じる▼そんな思いで宗祖のご一生を辿ると、誰にほめられることもなく、悪いことをしてもいないのに責められ、それを恨むこともなくひたすら万人の幸せを願い、法華経を伝え広めようとされたご生涯に改めて頭が下がる。そのお姿に学びたい。(直)

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2012年12月10日号

「あゝ全くたれが賢く…」

「あゝ全くたれが賢く、たれが賢くないかはわかりません」。これは宮沢賢治の短編童話『虔十公園林』の一節▼虔十はおかしくもないのに笑ってばかりで知恵が足りないと、周囲に馬鹿にされている少年。家の裏手に700本の杉苗を植えたいと言い出す。初めてのわがままだ。後に杉林となり子供達の恰好の遊び場所になる。20年後、ここで遊んでいた子どもが、アメリカの教授になって帰省したとき、虔十の林はそのまま残り子ども達の遊び場になっているのを見る。自分の子ども時代を思い出し、育んでくれた林の重要性を悟り冒頭の言葉となった▼お檀家で軽度の知的障害のあるA君が郵便局の自動預金機の前で、車椅子の高齢者のそばに立ち手伝っている姿を見た。その後彼は当たり前のように、鼻歌交じりでその車椅子の人に付き添って家まで送っていった。後日、母親は「そうなんです。そんなこと何も言わない子なんです」といっていた。彼は自転車で町内を回るのが日課だ。パトロールしているのだ。きっとその時に車椅子の人が困っているのに気づき、手を差し伸べたのだろう。そう、彼は吹聴したり自慢などはしない。彼にとっては当たり前のことなのだ。本当に「たれが賢いかわからない」▼お祖師様の立正安国の世界も、宮沢賢治のイーハトーブという理想郷も、こんな暖かい風がお互いの心に吹き合う世界なのだろう。(汲)

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