鬼面仏心

2020年11月20日号

AI

 昨年末の「紅白歌合戦」で30年前に亡くなった美空ひばりが登場した。「お久しぶりです」と語りかけ『あれから』という歌を唄う彼女の姿に、多くのファンが涙を流した。NHKが彼女の音源や映像からAI(人工知能)の技術を駆使して製作した「AI美空ひばり」だ。本物そっくりの「AI美空ひばり」の驚くと同時に、何とも言えない違和感を持ったのを覚えている▼公開後、「感動した」と絶賛する声がある一方で「本人の了解もなく、勝手によみがえらせて良いのか?」「せりふをしゃべらせるのはやりすぎだ」との声も。「AI美空ひばり」はどんなに本物そっくりでも本物ではない。その裏には映像を作った人間がいて、その言葉もそうした製作者側が語らせた言葉。なのに、まるで本人が生き返って話しているかのように感じさせるところに問題が▼AIという技術の進歩は素晴らしい。しかし気を付けないと、科学が勝手に死者をよみがえらせ、死者の意思や尊厳を汚すことにもなりかねない▼最近の葬儀は、葬儀社側の顧客へのサービスと思惑からか、音響・照明・映像などを取り入れた驚くような形態が多くなった。しかしその反面、死者を霊山へ送るという葬儀本来の宗教性や信仰が希薄になり、忘れられているように思えてならない。気を付けなくてはと思う。(義)

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2020年11月1日号

■わかっちゃいるが

 悲しさに浸っていた時、他のお寺の掲示板に救われたことがあった。「大切なこと。悲しみにも自己を失わないこと、そして楽しみにも自己を奪われないこと」。その時「苦をば苦とさとり、楽をば楽とひらき、苦楽ともに思ひ合わせて南無妙法蓮華経とうちとなへゐさせ給へ」(『四条金吾殿御返事』)と説いてくださった宗祖のお言葉を思い出した。御礼の意味を込めて「苦を以て、苦を捨てんと欲す(迷っている人は、苦を逃れるために、新しい苦の種になることをするものです)」(方便品第2)と我が寺の掲示板に書いて解説文を付けた▼人間とは弱いもので、仕事や生活の迷い苦しみから逃れようとして、ますます泥沼に落ち込んでしまう。酒を飲んで忘れようと深酒をする。一時的に苦しみから逃れて良い気分になっても、次の日には二日酔いと、前より悪化した現実が待っている。苦を捨てるためには、どうしたら良いのか? 人類の永遠のテーマだ▼このコラムの締切もそうだが、私には問題から逃避して別の行動に走る悪い癖がある。大切なことは「目をそむけずに現実を直視する勇気を持つこと」だが、別に用件を作ったりする。その度に家人から叱られる。本人より他人の方が冷静かつ的確に判断できる。この人の忠告を受け入れられるかどうかが問われるのだ。編集者から催促を受け、心を入れ替えて今、原稿を書いて……いる。(雅)

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