鬼面仏心
2022年11月20日号
■出会い・別れ
朝勤を終えてお堂から出ると、見知らぬ犬がちょこんと座っており、まるでお詣りしている風情である。どこの犬だろうか首輪がある。妻が朝ご飯の残りを分け与えると、嬉しそうに平らげた。それからはどこへ行くのも彼女の後をついて歩く▼感心したことに決して家の中へは上がって来ない。躾が行き届いているのだろう。おとなしいし、いずれ飼い主が来るだろうからと、そのままにしていたが、連れ合いにはことのほかなついていた。彼女が奥の部屋へ行くと、外から廻って奥の廊下へやって来るほどで、一時も離れようとしない▼半月ほど経って、愛想がいいのでアイソと名付けた。「飼い主が現れなかったらうちで飼いましょうよ」と話していた矢先、飼い主が現れた。よかった、と胸をなで下ろしたものの、いなくなった後の寂しさは今もって忘れられない。相手が犬であれ人であれ、あるいは品物であっても、別れは心を揺さぶる。心の繋がりを断たれた思いがする▼今この時にも戦火の中、悲しい「別れ」によって心に傷を負う人は後を絶たない。そればかりか、さらにまた新たな火種を燃やそうとする輩までが見聞きされる昨今である。戦争が人の為す業であるなら、また必ずや人の力によって終結させることができるはずだ。決して諦めることなく、立正安国・世界平和を訴え続けていかなくてはならない。(直)

2022年11月1日号
■認め合う
飛行機に乗るのが苦手だ。あの鉄の塊が飛ぶのが信じられないため、宮崎・東京間を10時間以上かけて電車で移動した。飛行機なら約2時間だ。疲れたがいろいろな景色の発見があった▼物理学者の故・寺田寅彦さんは「科学者は頭が良いのは勿論だが、頭が悪くなければならない」と言った。頭が良い人は足の速い旅人のように効率よく遠くまで行けるが、途中の道端や脇道にある物を見つけることはできない。逆に頭の悪い人は足の遅い旅人のように大事な何かを拾うかもしれないということだ▼ノーベル賞学者の山中伸弥さんは整形外科医としては不器用だったという。しかし、研究者に転じて何年もかけてiPS細胞を発見した▼お釈迦さまは相手に応じて説教をした。人の数だけ価値観や理解力があることを知っていたお釈迦さまは、方便という遠回りをして説き、最終的には真実にいたらしめた▼いま世界中で分断・レイシズム・差別が横行する。一方で多様性を認めようという言葉もよく聞く。職業・性別・人種などそれぞれの立場を認め合うということだ。コラムニストのブレイディみかこさんは「多様性は面倒くさく楽じゃないけど無知を減らすから良い」という。レイシズムや差別も無知から生まれる。見えるものだけで判断せず、相手のことを学び、知り、認める。そうすればそんなものはなくなる。(友)
