鬼面仏心
2023年5月20日号
■何もしない病
いろんな会議に出席して感じるのは、会議中一言も発言しない人が多いことだ。もちろん質問や意見がないのならそれでよい。しかし、いえば嫌われたり責任をとらされるからという人も多いのでは。そういう人ほど、実は反対だったなどと後でグチったりする▼地方紙の書評欄に、同志社大教授・太田肇著『何もしないほうが得な日本』が紹介されていた。会社や役所・学校など日本の社会全体に「何もしないほうが得」という「何もしない病」が広がっているという。この考え方は、個人というより日本という国の「組織や社会の構造的な欠陥」から生まれたと分析する▼「減点主義的な人事評価、リスクを取って挑戦することにメリットがあまりない終身雇用制」。そこから「下手に何かして失敗するよりも、何もしないのが一番得」という生き方に。そんな「個々人の消極的利己主義」が、組織にとっては「得」でははなく、ひいては日本という「社会全体を弱体化させてしまう」と警鐘を鳴らす▼「得」と「徳」では、ある意味で真逆の生き方になる。娑婆即寂光の世界を願い、お題目を唱え伝えた日蓮聖人。800年後の今も私たちに尊崇されるのは、「得」より「徳」に生きたからだ▼会議で発言しない人は、ひょっとしてこの「何もしない病」に感染しているからなのかも。コロナと共に、こちらにも気をつけたい。(義)
2023年5月1日号
■虫供養
お経回りで台所から家に上がる檀家がある。いつものようにドアを開けると、椅子の上に立ち上がった女性が悲鳴を上げて床を指さしている。大きなクモが獲物の虫を引きずっていた。クモを追い払ってからお経をあげた。その回向の中で虫の供養をすると、その女性から「なんで虫まで供養をするのか?」と聞かれた▼日本家庭殺虫剤工業会という業界団体がある。毎年1月に虫供養をしている。代表者は「私たちは虫にお世話になっている。虫の棲めない世界は人間も暮らせない。自然環境を壊すことなく快適な生活ができるように、殺虫剤をつくっている。虫にも魂があり、仕事とはいえこれを殺すことは、ものの哀れを知る人間にとってやるせない。供養する虫とともに生きることが、自らを生かす道」と話し、この慰霊祭の意義を示す▼ある殺虫剤メーカーの研究所では、100万匹のゴキブリと1億匹のダニを飼育している。これらの虫は、製品開発の犠牲になっている。参加は任意となるが、毎年虫の供養をしているという。製品を使う消費者の気持ちを推し量ることはできないが、開発する立場では「いっぱい殺してごめんなさい」と弔わずにはいられないのだ▼私たちの暮らしや食事は動植物などたくさんの生き物のいのちの上に成り立っている。女性と一緒に手を合わせた。「いのちに合掌」といいながら。 (雅)