鬼面仏心

2013年5月20日号

「鉄拳」という芸人をご存じ

「鉄拳」という芸人をご存じだろうか。白塗りのメークに怪しい格好。最近、彼が描く絵が静かに脚光を浴びている。絵と言ってもパラパラ漫画風にストーリーをもった絵だ。これが泣けると話題になっているのだ。私も感動した一人だ。それはある少女が、夢に向かって努力するという話。彼女には恋人がいて、いつも彼女を応援していた。しかしある日、その恋人は事故で急逝してしまう。一人になった彼女は、その時に初めて人の支え、そして幸せに包まれていたことを知り、最後には前を向いて夢をつかむというものだ▼夢に向かう途上も、一つの幸せの形かもしれない。人を羨んだり、自分の不運を嘆いたり。そんな時間さえ、振り返ればその時が幸せであったと感じる時がくるものである。失ってはじめてその大切さに気づかされることは多い。それが身近であるほど、蔑ろにしてしまう▼私の父は残念ながら既に他界している。しかし幼い記憶の中に父の姿をはっきりと思い出すことができる。あの時の父は大きかった。そしてあの時の幸せを感じることができる。先祖から受け継がれ、育まれたぬくもりが人間の幸せであり、人と人との関わりをもつことができることこそ、本当の幸せであると感じる。私は子や孫に、私より前の世代の方々から頂いたぬくもりという「幸せ」を伝えていきたい。(奏)

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2013年5月10日号

嫌な胸騒ぎがする。

嫌な胸騒ぎがする。福島原発の現状を調べれば調べるほど。真実を知るのが恐ろしいとさえ感じる。インターネットには嘘も噂も溢れている。しかしそこには報道されていない真実も間違いなく存在する▼日々の生活は、問題が収束に向かっていると錯覚するほど平和だ。諦め? 無関心? 先月120トン・7100億ベクレルもの汚染水が土壌に流出したというニュースも、驚くほど騒がれなかった。その後600トンの汚染水が姿を消したと報道されたが「計器の誤差」と東電は言う。バカにしている。私は号外が出てもおかしくないレベルの話だと思うのだが、地元新聞では一面トップにさえ載らない▼この先も毎日400トンずつ増えていく汚染水はどこへ? 保管しきれなくなった汚染水を「海洋投棄します」などと言い出すのも時間の問題だろう。すでに震災直後には緊急事態ということで大量の汚染水を海へ流しているのだ。アジやヒラメが泳ぐ海へ。なんとおぞましい▼一旦事故がおきたら、原子炉を冷却した汚染水すらまともに処理できない現実。なのに未だに原発推進派がいる不思議。今度こそ安全? いつまで国民は騙され続けるのか。人間の叡智が創り出した化け物が制御不能の大量殺人兵器となる可能性も否めないというのに▼知らなかったでは済まされない。私達が常に関心を持ち、祈り、行動することで日本の未来を変えられるかもしれない。いや、変えなければならない。(蛙)

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2013年5月1日号

我が町の国道沿いの

我が町の国道沿いの商店街はシャッター通りの様相である。小規模製造業や小売業は衰退し、農・林・漁業も高齢化が進み、山は荒れ、耕作放棄の農地も目立ってきた▼30数年前、住職として単身赴任した私は、田舎の買物の掟を知った。遠くのスーパーでなく、近くの商店で、高くても買物をしなければならないのだ。特に寺の前にある魚屋には毎日顔を出さねばならなかった。遠洋のマグロやブリがあるはずもなく、ボラやアジ等の地魚を食べていた。たまりかねて、ボンカレーを置いてもらった。カレーは楽しみだったが、ある日それが賞味期限切れになっているのに気付いた。それでも近所付き合いで食べた▼10年前、この町にも大型スーパーが進出し、とうとう魚屋も店を閉めた。その時解ったことがあった。私は季節の魚を、しかも新鮮な地魚を食べ続けていたのである。「旬」を食していたのである。しかも、あのボンカレーは、独身であった私だけのために取り寄せていたのであり、私が食べなければ売れ残ったのである▼経済の原則からすれば、田舎商売は淘汰されていくものかもしれない。しかし、経済とは「経世済民」と書く。救われていた民とは、私のことかと気付いた。気付いた時には、店はもうなかったのである▼宗教者として私には何ができるのであろう。この町に、人びとに。(雅)

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