2023年5月1日
■虫供養
お経回りで台所から家に上がる檀家がある。いつものようにドアを開けると、椅子の上に立ち上がった女性が悲鳴を上げて床を指さしている。大きなクモが獲物の虫を引きずっていた。クモを追い払ってからお経をあげた。その回向の中で虫の供養をすると、その女性から「なんで虫まで供養をするのか?」と聞かれた▼日本家庭殺虫剤工業会という業界団体がある。毎年1月に虫供養をしている。代表者は「私たちは虫にお世話になっている。虫の棲めない世界は人間も暮らせない。自然環境を壊すことなく快適な生活ができるように、殺虫剤をつくっている。虫にも魂があり、仕事とはいえこれを殺すことは、ものの哀れを知る人間にとってやるせない。供養する虫とともに生きることが、自らを生かす道」と話し、この慰霊祭の意義を示す▼ある殺虫剤メーカーの研究所では、100万匹のゴキブリと1億匹のダニを飼育している。これらの虫は、製品開発の犠牲になっている。参加は任意となるが、毎年虫の供養をしているという。製品を使う消費者の気持ちを推し量ることはできないが、開発する立場では「いっぱい殺してごめんなさい」と弔わずにはいられないのだ▼私たちの暮らしや食事は動植物などたくさんの生き物のいのちの上に成り立っている。女性と一緒に手を合わせた。「いのちに合掌」といいながら。 (雅)