2022年5月1日
■情ないがない世に
マラソン大会に出る市民ランナーからこんな話を聞いた。彼は大きな池の周回路を練習場にしている。普段はそんな考えは浮かばないが、大会直前の集中練習をしている時、ゆっくりと散歩している人を「邪魔」と思うことがあるというのだ。子ども連れやカップルが「30分で1周」という目標達成への妨げに見えるという。他者の存在に眼を向ける心の余裕がなくなるのだろう▼コロナ禍に加えロシアのウクライナ侵攻など、混沌とした世の中で、人は欲望の上に己の幸せを築こうとしているように見える▼日蓮宗の布教方針「いのちに合掌」という言葉が私は好きだ。私たちの手は握れば拳、開けば掌に。掌と掌を合わせれば合掌となるのだ。合掌とは私たちが今忘れかけている和の心、祈りの心、尊敬と信頼、感謝の心のあらわれであると思う▼日蓮聖人は「あなたが心から自分自身の安らぎを得たいと思うなら、何よりもまず、社会全体が平和になるように祈るべきである」(『立正安国論』)と示された。聖人にとって祈りとは、人びとの苦悩に共感同苦し、社会全体の平和の実現を通して、個人の幸せと安らぎを得る菩薩の道を実践することだった▼江戸時代の古歌に「鮎は瀬にすむ、鳥は木にとまる、人は情けの下にすむ」という言葉がある。情けない世の中にならぬよう、皆で菩薩の道を歩んでいこう。 (雅)