2021年10月20日
■白鳥の足
不要不急の外出自粛。気の向くまま遠出ができないと、反動でなおさら遠くへ行きたくなる。せめてもの慰みに過去の旅行写真を見ていて思い出した▼白鳥を観に猪苗代湖にドライブした途中、稲を刈り取った田んぼに白鳥の群れがいた。落ち穂を食べている様子は鶏が土を掘り返してミミズを食べている姿とさほど違わない。澄んだ湖上を滑るように進む白鳥のイメージとは大違い。肩透かしを食った気がした▼そういえばもっと前に、水面を滑る優雅な白鳥をどこかで目にしたことがあった。まるでチャイコフスキーの「白鳥の湖」に合わせるかのような、静かでしかも力強い光景に暫し見とれていた。やがて私のすぐ近くまでやって来たときには胸ときめく思いがした。ところが少しスピードを速めた白鳥の水面下の足を見ると、チョコチョコと無様に水をかき始めた。それは白鳥の優雅さとは逆に滑稽に感じられた▼隠れた努力をこの白鳥の足にたとえた訓話を見聞したことがあるが、まさになりふり構わない懸命な水面下の働きがあってこそ、力強く正確にしかも優美に進むことができるのである▼平穏な生活が脅かされる現状にあって、この荒波を乗り越え希望に満ちた社会、誰もが安心して暮らせる世界を実現するには、私たち1人ひとりが白鳥の足となって力を合わせて進んでいかねばならないと、改めて考えた。 (直)