オピニオン

2021年9月1日

◆ふたつの居士衣

 眼前に昭和55年1月1日発行の全日青(全国日蓮宗青年会)の機関紙「全國日青」がある。昭和55年といえば、宗祖日蓮聖人700遠忌を翌年に控え、全日青は一大プロジェクト「全国縦断唱題行脚」出発の年と定めていた。サブテーマに「唱えん‼ 世界平和を」とある。沖縄慰霊の日に沖縄を出発した北上コースに私も参加した。その時、私が着帯していた行脚用の居士衣はフィリピンで戦病死した師匠寺の先代の形見で、昭和8年購入と書かれた木綿製で、継ぎはぎだらけの色落ちしたよれよれの年代物であった。これに荒行堂用の兄弟子の麻の五条を着けた私は、戦争で命を落とした先代への想いもあり、意気高らかに行脚した。途中、師匠寺にも立ち寄り。玄題旗を九州から本州へと渡すコースを歩き終えた▼後日、師匠から新品のテトロン製の居士衣を渡された。「檀信徒からあまりにも粗末な衣を着ていたと話題になってなぁ…。ワシは事情は知っていたが、寄付申し出を受けた。これは素直にもらっておけ。目立ってもいい。その裏付けをちゃんとしておけばな」。師匠の言葉と真新しい居士衣を受け取った▼木綿とテトロンの居士衣には、真摯に平和を祈った真夏の唱題行脚の汗と檀信徒の思いやりがしみ込んでいる。平和への祈りと人への感謝を忘れぬよう、このふたつの居士衣は今も大切にしている。(雅)

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