2020年4月20日
◆写経のすすめ
「無い物ねだりはあきまへん」教え諭すように言うS婆ちゃんの声が、今も耳に残る▼住職になりたての頃、「どんなものでも、仏さんから戴いた有難いものやと思い大事にしていくのが生きるコツですよ」口癖のお説教を聞かされた。「美貌では私は勝てません」と続ける。なるほど昔の尺度で見ても今の感覚から言っても美人とは言い難い。「顔がアカンから肌で勝負しまんねん」という婆ちゃんの肌のきれいなこと。「これが私の生き方なんです」と聞く者を納得させる。当に人生の達人であった▼その婆ちゃんが同居する息子のお嫁さんと上手くいかないとしょげ返っていた。どうすればいいのかと聞かれたが、若かった私には応えようがなく、写経を勧めた。何でも真っ直ぐに進む婆ちゃんだ。早起きして仏壇にむかって写経を始めた。そして8ヵ月後に法華経八巻を書写してしまった▼「不思議なことにこの頃は言い争うこともない、良い嫁になってくれましたわ」。でもこれ実はお嫁さんではなく婆ちゃんの方が変わったのではと思ったが、余計な口をはさむことではない▼コロナ騒ぎで思うように出掛けることもできず、無駄な時間が過ぎていく。でもS婆ちゃんに言わせれば、これも仏さまから戴いた有難い時間ではないだろうか。嘆くより今こそ書写行に勤しみ、広大無辺の仏の世界を旅してみてはいかがだろう(直)