2020年4月10日
■やさしいは強いこと
「ハイ」と差し出されたのは、朝から並んでも一枚も手に入れることができなかったマスクだった。そのまま立ち去る後ろ姿は、やさしさの配達人のようだ▼新型コロナウイルス感染に、みな戦々恐々としている中でこそ他者との関わり方が問われよう。昭和の半ばにはよく「他人様」と呼んで世間との繋がりを大事にしてきた。「ひとさまに迷惑だけは掛けないように」と、よくいわれたことを思い出す。いつの頃からだったのだろう。人を押しのけるようになったのは▼腰を落とし、子どもの手を取り、目を見つめて何かを話し掛けている写真を思い出す。やさしさに満ちた眼のその人は宮城まり子さん。誰も気にも留めないものに手を差し伸べる人だった。生活の苦しいジャズマンの父親。弟さんと大変な苦労をして音楽の道へ。「泣いている子にやさしくしようね」。その思いが「ねむの木学園」となった。子どもたちにもこう教え続けた。「やさしくね、やさしくね、やさしいことは強いのよ」。幼い時からやさしさから逃げない人だった▼全世界を叫喚させているこの事態に、日蓮聖人なら何とおしゃるだろうか。お題目を唱えながら、他人様との繋がりを保ち、求める人にはできる範囲で与え、やさしく受け入れよう。人が求めているのは、物でもあるが、自分を受け入れてくれる受容心なのだよと。マスク1枚のやさしさを。(汲)