2019年7月10日
シャープペンシル
物があふれた自室の片づけ中、本棚の隙間から平べったい桐箱を見つけた。子どもの頃からこの箱に大切にしまっていた筆記具たちを、私はすっかり忘れていた▼埃を払い、蓋を開けると、握れないほど短くなったたくさんの鉛筆と、マジックやボールペン。書き癖のついたペン先、軸には細かい擦り傷。中でもエンジ色のシャープペンシルは傷だらけ。30年も昔、小学生が持つには不相応な高級品ながらも父が買ってくれて、嬉しくて、いつも筆箱に持ち歩き、がむしゃらに勉強したっけ。試験ではこのシャーペンがお守りで相棒、中・高・大学生になっても勇気をもらった。あの頃の私は、1本のシャーペンさえも自分の分身のように大切にしていたのだ…▼いつの頃からだろう、雑に物を消費するようになったのは。買い集めた物も、結局使いこなすことなく粗末にし、そしてまた新しいものが欲しくなる無限ループ…▼シャーペンの無数の傷を眺めていたら涙がこぼれてきた。「物を蔑ろにする人は、自分のことも、周りの人をも蔑ろにしがちだ」と、知り合いの僧侶が言っていたが、あんなにも大切にしていたはずの宝物を、なおざりにしていた今の自分に悲しくなった。人に命があるように、物にも命がある。漫然と暮らすうちに見失っていた物の命。どんな類の命であっても、その命への感謝を大切に、共に生きていきたいと思った。(花)