日蓮宗新聞

2004年8月10日号

復旧へ向け大きく踏み出す 豪雨禍の新潟・福井

新潟・福井両県で深刻な被害をもたらした集中豪雨で、7月13日に刈谷田川の堤防が決壊したことにより、家屋流失、床上浸水など深刻な被害を受けた新潟県中之島町では、1万7千人を超すボランティアや自衛隊の援助を受け、復旧に向けて大きく踏み出した。個人・団体のボランティアを受けつけ、作業の割り振りや物資の援助を行っていた「中之島町災害救援ボランティアセンター現地本部」も、住民の依頼が少なくなったことから8月1日には終了、日蓮宗寺院の中でも特に大きな被害を受けた中之島地区の妙栄寺(望月是範住職)も、ひとまずの平静さを取り戻した。豪雨がおさまった後、ボランティアの数が不足しているのに支援の方法がわからず、多くの人が右往左往する中、被害状況を知った直後に現地へ出向き、黙々と作業を進める僧侶たちがいた。被災地でのマニュアルも確立されていない中、どのような行動ができたのか。また、本堂が全壊した妙栄寺のその後は――。

中之島町に1万7千人を超すボランティア

 本堂と墓地を流失した妙栄寺には、惨状を知った東京南部宗務所(石井隆康所長)の社会活動部会(安藤正道部会長)、妙栄寺のある新潟東部の日蓮宗青年会(神田義崇会長)、石川二部元日蓮宗青年会を中心とした多くの有志が駆けつけ、連日ボランティア・センターから派遣される一般ボランティアとともに、境内を覆った土砂の除去作業や墓石の掘り起こし等にあたった。
新潟東部宗務所(吉田錬勝所長)は、堤防が決壊し溢れた泥水が引いた後、日青会を中心に近在寺院の僧侶が入れ替わり妙栄寺に駆けつけ、スコップと一輪車を手に泥の除去作業を開始。
東京南部宗務所の社会活動部会も刈谷田川堤防が決壊した翌14日、新潟東部寺院20ヵ寺を電話調査。16日に安藤部会長が石材業者と妙栄寺の惨状を視察すると同時に、残った庫裡一階・車庫の泥をかい出す作業を行い帰京。緊急会議を開き、各寺院の盆・施餓鬼が終わる22日に先遣隊5人の派遣を決定した。
先遣隊5人は22日と23日の終日、妙栄寺の望月住職らと相談の上、手作業で境内を覆う土砂の撤去にあたった。23日の深夜には、石材業者が東京から手配したユンボ(パワー・ショベル)二台とユニック(クレーン・トラック)、2トンダンプカーが妙栄寺に到着した。

 石川二部元日蓮宗青年会会員と寺族・檀信徒を含む8人は“一刻も早く力になりたい”と7月23日、午前四時に地元を車で出発、四時間をかけて午前8時に現地入り。重機が入る前だったため、炎天下の中、夕方まで長靴、軍手姿でシャベルを持ち込み、墓石を掘り起こし、土砂を一輪車で運ぶ作業を行った。
24日からは、東京南部から本隊として人員を増派。前日深夜に到着した重機と、24四日午後からは妙栄寺出入りの石材業者、新潟東部が手配した業者が大型の重機を持ち込み、三つの重機のグループが境内を分担する体制ができ、連日ボランティア・センターから派遣される200人を超える大勢のボランティアとともに、作業の能率は飛躍的に向上した。東京南部社会活動部会は、墓地などの大方の土砂の除去が終了し、今後は地元の方々で大丈夫と判断、28日午前の作業で撤去した。
復興作業には他にも、新潟県羽咋市本成寺青年会の檀信徒など多くのが関わった。

お盆も近いし、心配で
妙栄寺の檀家 旅先で知った被害

今町に住在佐藤マキさん

 最高気温が37度を超えた1日の午前、中之島町妙栄寺。刈谷田川をはさんで隣の今町に住む佐藤マキさん(76)は、妙栄寺での大がかりな作業が落ちついたのを見計らって、様子を見に来た。
「お盆も近いし、お墓がどうなっているか心配になって。でも、思ったよりひどくなくてよかった」と、4年前に亡くなったご主人、昌三さんの墓を見つめた。
佐藤家の墓は本家と分家の二つがあり、分家の墓の一部が濁流によって倒された。
13日、佐藤さんは今町の老人会の旅行で群馬県の猿ヶ京温泉にいた。テレビで妙栄寺の隣家の屋根が水に浸かっている光景を見て驚き、自分の家も心配になったが、「戻ってもどうすることも出来ない」と話し合い、1泊して翌日の予定を早めに切り上げて帰った。幸い、家にそれほど被害はなかった。
「これが残っているとは思わなかった」とほほえんで指さすのは、木に釘を打ちつけた、佐藤さん手作りの燭台。長年の墓参りで蝋が溶けて流れ、しっかりと固定する役目を果たし、流失するのを防いでいた。
佐藤さんは幼少時代、お寺でのお説教を覚えて話せるくらい、お寺に通い、親しみを持っていた。今年、お盆の8月13日と14日には必ず時間を作ってお墓参りをする。
「こんなに早く(境内が)片付いているなんて。これでお盆にもまた来られます。多くの人に感謝しなければね」。
ボランティアは無償の奉仕。個々としての活動は伝わりにくいが、その活動の分だけ、受けとめる人がいる。数多くのボランティアや支援を受け、妙栄寺のお盆も例年どおり、やってくる。

全国から多くの義援金

新潟・福井豪雨に際し、全国から多くの支援が寄せられている(8月5日現在)。
妙栄寺には7月21日身延山久遠寺(藤井日光法主猊下)、身延山学園(井上瑞雄理事長)、身延山学園同窓会(平原要俊会長)が訪れ義援金を手渡したのをはじめ、新潟県勇通師会、全国日蓮宗青年会、見附市社会福祉協議会、中之島地区保護師会、立正佼成会長岡教会、東京南部宗務所社会活動部会、また新潟北部、富山、石川一・二部、福井中・南・北部の各宗務所が帰宅した。
日蓮宗宗務院には宮城、千葉東、群馬、静岡東、広島、大阪三島、北海道南、高知、兵庫北、静岡中部の各宗務所、神奈川二部宗務所と神奈川二部社会教化事業協会が寄託。新潟東部宗務所には東京南部、長野宗務所がそれぞれ寄託している。
なお、宗務院では新潟・福井豪雨の救援基金として、全国の寺院・教会・結社に募金箱を配布し、支援を呼びかけている。

思わぬ救援隊に勇気 他宗の僧侶が応援に

ボランティアに疲れが見え始めた27日、妙栄寺に救援の腕章を付けた僧侶20人がやって来た。真言宗の僧侶だった。真言宗では災害に備え、いつでも動けるように、常に50人程が救援の心得を持って待機しているという。
他宗の僧侶が応援にかけつけてくれるとは、誰が予想していただろうか。「自分たちは手が回らない状態なのに…」と、その場にいた日蓮宗僧侶は反省を促されたという。
思わぬ救援隊に勇気と力をもらい、共に汗を流しながら着々と進められた。

参参拝者が来てお経があげられるよう
妙栄寺 望月住職の配慮

望月住職によれば、7月中には妙栄寺境内の破損した墓石を修理し、ある程度、どの石がどの家のものであるか確認できたという。
8月5日には、毘沙門堂跡地にクーラー、水道を完備した広さ24畳のプレハブを設置した。7日の新盆会に備え、「参拝者が来てお経があげられるように」との配慮からだ。
今後について望月住職は「一つの業者に頼み、すべての墓石の修復に取りかかりたい」と話していた。

illust-hitokuchi

2004年8月1日号

泥土の中、懸命な復旧作業

のどかな町をたゆたう川が突如、牙をむいて人に襲いかかった。「ここで濁流がゴーッと渦を巻いて…」。豪雨から、ちょうど1週間がたった20日の中之島町妙栄寺(望月是範住職)。泥だらけになった手を休め、子弟の望月是祥師はやり切れない表情を浮かべて当時の状況を説明した。何もかも奪い去られてしまった今、残された気力だけで復旧を目指すのは余りに厳しい。

死者15人を出し、新潟中・下越を襲った7月13日の豪雨と、17日夜から18日朝にかけて広範囲で浸水被害を出した福井北部の豪雨を受け、20日と21日の両日、日蓮宗の垣本孝精総務部長、中條令紹同局長らが現地に入り、被災寺院を視察した。あわせて訪れた新潟・福井県庁では見舞い金を手渡し、被害と救援活動の現況を聞いた。
刈谷田川の堤防の決壊により、甚大な被害を受けた妙栄寺では、本堂、書院、庫裡、大広間、毘沙門堂、羅石堂、鐘楼堂、今年11月に落慶を控えていた位牌堂が一瞬にして崩壊、濁流に呑まれたたことが報告され、福井市街においては足羽川の堤防の決壊により道路が冠水し、泰遠寺(天津泰薫住職)などで床上浸水の被害に遭ったことが明らかになった。
視察当日は連休明けということもあり、全国各地から集まったボランティアの数も激減。変わり果てた自宅に戻り、復旧作業に追われて不安と疲れをにじませる住民の姿があった。

「蔵書を全て失った」
望月是範住職 無念の思い明かす

以下、20日の視察に同行した記者の報告。
午後2時過ぎ、自動車で新潟県の中之島地区へ。警備員の誘導により車を止め、外へ出る。梅雨明け間近、青空が広がり、むし暑い。自然と汗がにじみ出てくる。
道路に流れ出ていた土砂は大方片づけられていたが、時折通るトラックの勢いで、乾いた泥が砂埃となって舞い上がり、視界を遮る。
使えなくなった家財道具や袋詰めになった泥は脇に山積みにされ、回収を待っている。異臭が辺りに漂う。
民家づたいに歩くと、ズボンを長靴に入れ、泥にまみれたTシャツ姿の人たちとすれ違う。
汗をぬぐうのも忘れ、懸命に復旧作業に携わる様子からは、「何とかこの状況を脱しないと」との思いがひしひしと伝わってくる。
ただ、連日の作業で疲労の色は隠せず、安堵の表情はどこにも見受けられない。道ばたに座り込んで辺りを見回す住民の表情も、曇ったままだ。
妙栄寺に到着した瞬間、息を呑んだ。本堂や墓石など、境内にあるはずの建物がどこにも見あたらない。崩壊した建物の残骸や崩れた墓地などは、自衛隊やボランティアによってこの日までに少しずつ取り除かれていた。

濁流が通った後に残されたドロドロの粘土質の土に長靴がのめり込み、歩くのもままならない。 中之島地区が大規模な被害を受けたのは、刈谷田川の堤防が決壊したことによる。妙栄寺は刈谷田川が右側にカーブし始める場所の右岸に位置し、堤防は本堂のすぐ裏手にあった。
13日の刈谷田川の最高水位は、ダムの建設以来、最大の流入量を記録。この濁流に数時間打ち付けられ、水圧に耐えられなくなった部分の堤防が決壊した。
同時に、本堂、書院、庫裡、位牌堂などが押し流され、濁流が川から町の方へと抜ける道筋を作った。
当時、住職らは寺を留守にしており、世話人や総代と連絡を取り合いながら、気が気でない思いで寺に引き返した。是祥住職が着いたのは5時頃。すでに、2階部分が水につかっていた。
水が引いた境内に残されたのは、庫裡の2、3階部分と、濁流に立ち向かうように佇んでいた、日蓮聖人銅像だけだった。
気丈に復旧作業を進めながら語ってくれた是範住職が唯一、無念の思いを明かしたのは、「蔵書を全て失ってしまった」こと。自分が勉強したり、説法したりする時に活用していた本が流されてしまった。
ふっと肩を落とす是範住職を見るにつけ、寺院方や関係者の宅で眠っている書物があれば、譲って頂くことができないだろうかとの思いを強くした。
◇   ◇

26日、是祥師に再び話を聞いた。「あれから随分と境内が片付きました。檀家の方々、新潟東・西部の青年会、東京南部宗務所からボランティアで来て下さった皆さん、その他多くの人たちに心からお礼を言いたい。動いてくれる皆さんを見て、私たちも力が湧いてきました」。所在がわからなくなっていた寺の宝物も、あちこちで見つかり戻ってきた。鐘楼は、約100m離れた場所で農機具に引っかかり発見された。
◇   ◇
人手不足や被災者の住居確保など、中之島町ほか被災地域の問題は山積している。その中でも、特に妙栄寺には早く立ち直って、被災者のためにも“心の拠り所”としてのお寺を取り戻してほしいと願う。気力、体力だけでは解決できない問題を乗り越えるには、少しでも多くの協力が必要だと感じる。
今からでも遅くはない。全国からの善意ある支援、寄付に期待したい。

泥の掻き出しに1週間
福井市 泰遠寺

代わる代わる手伝いに感謝
その他、視察により明らかとなった被害状況は次の通り(吉田錬勝新潟東部宗務所長、池浦泰樹同西部所長、布谷海哲福井北部所長協力)。
新潟県三島郡和嶋村の本山妙法寺(長谷川日城貫首)▽境内建物への被害はなかったものの、裏山の斜面に亀裂。今後の雨で土砂崩れが起きないようにとビニールシートで応急処置がなされ、斜面の土の水抜き作業が行われた。長谷川貫首は「豪雨の日から頭が休まらないが、このお寺を守らせて頂くのが私の使命」と固い表情。

同県出雲崎町の妙福寺(遠藤智幸住職)▽裏山の斜面が崩落、墓石が倒れる被害。
山肌が露出し巨大な岩が現れた。起こりうる危険を早めに察知し、早めに民宿に避難した。今は土嚢を積んで万一に備えているが、あくまで応急措置。18日以後も雨が降り続き予断を許さない状況で、今後の対処に頭を抱えている。
福井市泰遠寺(天津泰薫住職)▽2階部分が本堂で、主な被害は1階部分の庫裡。足羽川の決壊が時間の問題とされ、避難勧告後すぐに「93歳の母親を連れて近くの兄の家に避難した」(泰薫住職)。床上浸水してから一週間、溜まった泥の掻き出しに追われた。「宗務所から代わる代わる手伝いに来てくれ、作業を早く進めることができて感謝している」(同)。

同市本法寺(山田行英住職)▽同様に、一階部分の庫裡が床上浸水。
また一向は、浸水の被害を受けた福井市内の江守幹男全国檀信徒協議会会長宅を慰問した。
視察を終えた垣本部長は「災害を目の当たりにし、自然の脅威を感じた。被災した方々には、一刻も早く立ち直ってほしい。できる限り協力させていただく所存です」と、本宗として協力を惜しまない旨を示した。

日蓮宗全国寺院・教会・結社・檀信徒などに勧募呼びかけ
今回の新潟・福井豪雨災害で被災した寺院の復興、関係被災者の生活復旧に向け、全国社会教化事業協会連合会(旭英順会長)等でいち早く勧金の動きがあったが、このたび統一して日蓮宗で全国寺院・教会・結社・檀信徒に義援金勧募を呼びかけることが決まった。
義援金は菩提寺から各管区の宗務所を通して、郵便振替〈日蓮宗宗務院財務部00190-5-4825〉へ。振替用紙に「新潟・福井豪雨災害義援金」を明記のこと。期間は3ヶ月で、10月末日受付終了。

全国に先がけて 大阪市宗務所
義援金百万円寄託

大阪市宗務所(和田龍昌所長)は7月23日、全国に先駆けて新潟・福井豪雨に対する義援金として100万円を宗務院に寄託した。
大阪市宗務所では社会教化事業協会(佐野貫順会長)が「災害救援活動マニュアル」を作成。毎年管内の僧侶一人につき3000円以上納めていた積み立ての中から100万円を寄託することが22日の協議員会で了承され、翌日、和田所長が東京・池上の日蓮宗宗務院を訪れ、岩間湛正宗務総長に手渡した。

illust-hitokuchi

side-niceshot-ttl

写真 2023-01-13 9 02 09

新年のご挨拶。

過去の写真を見る

全国の通信記事

  • 北海道教区
  • 東北教区
  • 北陸教区
  • 北関東教区
  • 北関東教区
  • 千葉教区
  • 京浜教区
  • 山静教区
  • 中部教区
  • 近畿教区
  • 中四国教区
  • 九州教区

ご覧になりたい
教区をクリック
してください

side-report-area01 side-report-area02 side-report-area03 side-report-area04 side-report-area05 side-report-area06 side-report-area07 side-report-area08 side-report-area09 side-report-area10 side-report-area11_off side-report-area12
ひとくち説法
論説
鬼面仏心
購読案内

信行品揃ってます!

日蓮宗新聞社の
ウェブショップ

ウェブショップ
">天野喜孝作 法華経画 グッズショップ
">取扱品目録
日蓮宗のお店のご案内
">電子版日蓮宗新聞試読のご登録
">電子版日蓮宗新聞のご登録
日蓮宗新聞・教誌「正法」電子書籍 試読・購入はこちら

書籍の取り扱い

前へ 次へ
  • 名句で読む「立正安国論」

    中尾堯著
    日蓮宗新聞社
    定価 1,365円

  • 日蓮聖人―その生涯と教え―

    日蓮宗新聞社編
    日蓮宗新聞社
    定価 826円+税

書評
正法
side-bnr07
side-bnr07