日蓮宗新聞
2019年3月20日号
いつまでも「祈り」を
東日本大震災から8年を迎えた3月11日、被害が大きかった岩手県の沿岸部の寺院などをはじめ全国で法要が営まれた。
釜石市の身元不明遺骨の安置施設で同市主催の供養が営まれ、同市仙寿院の芝﨑惠應住職と東京都南部宗務所防災部の僧侶が読経と唱題を行った。同施設には昨年7月まで仙寿院に安置されていた身元不明遺骨9柱が納められている。野田武則市長をはじめ、未だ家族が見つからない遺族ら約50人が参列し、供養の誠を捧げた。
仙寿院では、一時引き受けた遺骨は約400柱にも上る。そのうち身元が分からず昨年まで同院に安置されていたのは10柱。芝﨑住職の娘の瞳さんは、「必ず家族は見つかる。1人じゃないよ」と家族を励ますように毎日給仕してきた。同施設に納骨された後も訪れ、同じように願ってきたという。昨年11月、10柱のうち1柱の身元が判明し、12月に家族の元へ帰った。瞳さんの祈りが1つ通じた瞬間だった。防災部の僧侶の1人は、「若い僧侶とともに震災から毎年、出仕しているのは、何よりも犠牲者への祈りの大切さを知ってほしいため。その心を檀信徒にも繋げて欲しい」と語る。
檀信徒の川崎和弘さんは、「身元不明のご遺骨があると同時に、未だ家族が見つかっていない人がいる。互いに見つかり、早く安らかに手を合わせられるようになってほしい」と祈った。
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釜石市鵜住居駅前に建設中の「釜石祈りのパーク」で、LEDライトを用いた灯籠が「いのり」という言葉を夕闇に浮かばせた。
灯籠を設置したのは、同市仙寿院の芝﨑惠應住職をはじめ、檀信徒や遺族、東京からの僧侶の約20人。荒天のため中止となったがパークの除幕式に合わせ、遺族からの要望を受け、釜石市での犠牲者数に合わせた灯籠約1200基が点された。檀信徒の1人は「1つひとつのライトを点灯するときに、1人ひとりの冥福を祈った。この日を忘れずに祈りを捧げていきたい」と語った。
芝﨑住職は「犠牲者への祈りはもちろんだが、生きている者同士で安穏を願う祈りでもあるということ。それは死者が生き残った家族への安穏を願う祈りだともいえる」と被災地がまだまだ厳しい状況であることを物語った。
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檀信徒164人の犠牲者を出した蓮乗寺の法要では、犠牲者を弔う和讃とお題目が響きわたった。
まだ仮設住宅に住む和讃会の檀徒の女性は、「前に住んでいた近くの土地の受け渡しがやっと済んだ。仮設住まいだったが、こうやってお寺と和讃会があるおかげでここまでやってこられた」と述べた。また参列した男性の1人は「食事のとき、寝るとき、毎日のように娘と孫を亡くしたあの日を思い出す」と口に出すことも厳しい様子を見せながら話した。法要後、木藤養顕住職は「半歩下がってもいいから、少しずつ進んでいきましょう」と参列者に優しく語りかけた。
檀信徒青年リーダー研修開く
住職を補佐して寺院の諸活動をサポートする人材育成を目的に、檀信徒青年リーダー研修が2月23、24日、東京都大田区の日蓮宗宗務院で開催された。菩提寺を地域の人たちのオアシスにし、どんな人同士でも合掌しあえる場所にする方法を、20歳の最年少参加者含む29人が模索した。
初日は木田隆正師が、万灯講についての体験型講義を行った。まず木田師自坊の万灯講の協力で、万灯の組み立てから見学。大勢の人たちが講中に関わって運営されていることを説明した後、「八木節」のお囃子に合わせてうちわ太鼓を叩く実践を行った。木田師は万灯まで用意するのは難しいとしながらも、「万灯講は、参加する人とうちわ太鼓さえあれば始められる。1人暮らしや寂しいと思っている人も参加できるため、私は1人じゃないと思ってもらえる場所にもなる」と説いた。島根県から参加した男性は「万灯の飾り付けなど地域の子どもたちが目を輝かせながら手伝う姿が目に浮かぶ。ぜひ万灯講をやってみたい」と意欲的な姿勢を見せた。
2日目は第2講として池上幸保全国日蓮宗檀信徒協議会会長などを交えて「意見交換会 リーダーの役割とは?」を行った。まずはじめに池上会長が、それぞれの菩提寺でできることを考える上でのヒントを具体例を挙げて提示した。続いて高知県から参加した瀨戸千可さん美文さん姉妹と母親の麻利さんが昨年度の同研修に参加したことがきっかけで作成したチラシ「平成30年度高知県日蓮宗のお寺の行事表」について報告を行った。このチラシは菩提寺の行事を知らせることにとどまらず、近隣の日蓮宗寺院の同様の行事予定などを盛り込んだもの。仕事の都合で菩提寺のお会式に参列できなかったことから、同じ日蓮宗の寺院のお会式に参列することができないか模索するなかで、できあがったチラシで、これを見て菩提寺以外のお会式に参列した人もいたという。各寺院の行事参加者が固定化しつつある現状に、小さいながら一石を投じることとなった。
また法座形式でフリートークが行われ、それぞれが菩提寺における自身の取り組みと問題点を話し合った。
2019年3月1日号
第798回・日蓮聖人降誕会
日蓮聖人降誕八百年のご正当をいよいよ2年後に控えた千葉県鴨川市大本山誕生寺で2月16日、第798回降誕会が営まれた。参列した僧侶檀信徒約300人は、降誕の奇跡を寿ぐとともに誰もが合掌し合う立正安国への発信と実現を誓うお題目を響きわたらせた。
法要に先立ち、約800㍍離れた妙蓮寺から万灯講を先頭に日蓮聖人ご幼像が奉安された御輿が担がれ、練行列が行われた。到着した祖師堂では千葉県南部宗務所主催・僧侶檀信徒結集大会の唱題行が行われており、ご幼像は堂内外からの大音声のお題目に包まれるなか、ご宝前に遷座された。荻野泰継所長が「八百年に向けて、夫婦・家族・周囲の人びとが合掌しあえる社会を」と呼びかけると、千葉南檀信徒協議会長で現職の衆議院議員の森英介氏が「日蓮聖人と同郷の誇りをもって、盛り上げる原動力にならなければならない」と参加者に使命感を強めることを求めた。
石川日●貫首を導師に営まれた法要では、参列した中川法政宗務総長が挨拶に立ち、「日蓮聖人がすべての人びとを救うため仏使としてお生まれになったこの聖地には、今も蓮華が咲き誇り、泉は渾々と涌き出で、海には鯛が飛び跳ねています。形ではありません。心がその奇跡の瞬間に満たされ、目に見えるのです。この不思議を感じ、改めて日蓮聖人のご遺言として50年100年先の未来までお題目の灯をともすことが私たちの使命」と挨拶した。角濵監鏡執事長は謝辞で子どもを取り巻く社会環境を危惧し、「お題目を唱えるすべての人たちと誕生寺でお祝いし、社会へ向けてできることを行っていきたい」と述べた。
今年から万灯講で参加したという女性は「ご縁があって八百年のお祝いができることが嬉しい」と日蓮聖人のお題目を受け継ぐことの使命を笑顔で示した。