日蓮宗新聞

2004年8月1日号

泥土の中、懸命な復旧作業

のどかな町をたゆたう川が突如、牙をむいて人に襲いかかった。「ここで濁流がゴーッと渦を巻いて…」。豪雨から、ちょうど1週間がたった20日の中之島町妙栄寺(望月是範住職)。泥だらけになった手を休め、子弟の望月是祥師はやり切れない表情を浮かべて当時の状況を説明した。何もかも奪い去られてしまった今、残された気力だけで復旧を目指すのは余りに厳しい。

死者15人を出し、新潟中・下越を襲った7月13日の豪雨と、17日夜から18日朝にかけて広範囲で浸水被害を出した福井北部の豪雨を受け、20日と21日の両日、日蓮宗の垣本孝精総務部長、中條令紹同局長らが現地に入り、被災寺院を視察した。あわせて訪れた新潟・福井県庁では見舞い金を手渡し、被害と救援活動の現況を聞いた。
刈谷田川の堤防の決壊により、甚大な被害を受けた妙栄寺では、本堂、書院、庫裡、大広間、毘沙門堂、羅石堂、鐘楼堂、今年11月に落慶を控えていた位牌堂が一瞬にして崩壊、濁流に呑まれたたことが報告され、福井市街においては足羽川の堤防の決壊により道路が冠水し、泰遠寺(天津泰薫住職)などで床上浸水の被害に遭ったことが明らかになった。
視察当日は連休明けということもあり、全国各地から集まったボランティアの数も激減。変わり果てた自宅に戻り、復旧作業に追われて不安と疲れをにじませる住民の姿があった。

「蔵書を全て失った」
望月是範住職 無念の思い明かす

以下、20日の視察に同行した記者の報告。
午後2時過ぎ、自動車で新潟県の中之島地区へ。警備員の誘導により車を止め、外へ出る。梅雨明け間近、青空が広がり、むし暑い。自然と汗がにじみ出てくる。
道路に流れ出ていた土砂は大方片づけられていたが、時折通るトラックの勢いで、乾いた泥が砂埃となって舞い上がり、視界を遮る。
使えなくなった家財道具や袋詰めになった泥は脇に山積みにされ、回収を待っている。異臭が辺りに漂う。
民家づたいに歩くと、ズボンを長靴に入れ、泥にまみれたTシャツ姿の人たちとすれ違う。
汗をぬぐうのも忘れ、懸命に復旧作業に携わる様子からは、「何とかこの状況を脱しないと」との思いがひしひしと伝わってくる。
ただ、連日の作業で疲労の色は隠せず、安堵の表情はどこにも見受けられない。道ばたに座り込んで辺りを見回す住民の表情も、曇ったままだ。
妙栄寺に到着した瞬間、息を呑んだ。本堂や墓石など、境内にあるはずの建物がどこにも見あたらない。崩壊した建物の残骸や崩れた墓地などは、自衛隊やボランティアによってこの日までに少しずつ取り除かれていた。

濁流が通った後に残されたドロドロの粘土質の土に長靴がのめり込み、歩くのもままならない。 中之島地区が大規模な被害を受けたのは、刈谷田川の堤防が決壊したことによる。妙栄寺は刈谷田川が右側にカーブし始める場所の右岸に位置し、堤防は本堂のすぐ裏手にあった。
13日の刈谷田川の最高水位は、ダムの建設以来、最大の流入量を記録。この濁流に数時間打ち付けられ、水圧に耐えられなくなった部分の堤防が決壊した。
同時に、本堂、書院、庫裡、位牌堂などが押し流され、濁流が川から町の方へと抜ける道筋を作った。
当時、住職らは寺を留守にしており、世話人や総代と連絡を取り合いながら、気が気でない思いで寺に引き返した。是祥住職が着いたのは5時頃。すでに、2階部分が水につかっていた。
水が引いた境内に残されたのは、庫裡の2、3階部分と、濁流に立ち向かうように佇んでいた、日蓮聖人銅像だけだった。
気丈に復旧作業を進めながら語ってくれた是範住職が唯一、無念の思いを明かしたのは、「蔵書を全て失ってしまった」こと。自分が勉強したり、説法したりする時に活用していた本が流されてしまった。
ふっと肩を落とす是範住職を見るにつけ、寺院方や関係者の宅で眠っている書物があれば、譲って頂くことができないだろうかとの思いを強くした。
◇   ◇

26日、是祥師に再び話を聞いた。「あれから随分と境内が片付きました。檀家の方々、新潟東・西部の青年会、東京南部宗務所からボランティアで来て下さった皆さん、その他多くの人たちに心からお礼を言いたい。動いてくれる皆さんを見て、私たちも力が湧いてきました」。所在がわからなくなっていた寺の宝物も、あちこちで見つかり戻ってきた。鐘楼は、約100m離れた場所で農機具に引っかかり発見された。
◇   ◇
人手不足や被災者の住居確保など、中之島町ほか被災地域の問題は山積している。その中でも、特に妙栄寺には早く立ち直って、被災者のためにも“心の拠り所”としてのお寺を取り戻してほしいと願う。気力、体力だけでは解決できない問題を乗り越えるには、少しでも多くの協力が必要だと感じる。
今からでも遅くはない。全国からの善意ある支援、寄付に期待したい。

泥の掻き出しに1週間
福井市 泰遠寺

代わる代わる手伝いに感謝
その他、視察により明らかとなった被害状況は次の通り(吉田錬勝新潟東部宗務所長、池浦泰樹同西部所長、布谷海哲福井北部所長協力)。
新潟県三島郡和嶋村の本山妙法寺(長谷川日城貫首)▽境内建物への被害はなかったものの、裏山の斜面に亀裂。今後の雨で土砂崩れが起きないようにとビニールシートで応急処置がなされ、斜面の土の水抜き作業が行われた。長谷川貫首は「豪雨の日から頭が休まらないが、このお寺を守らせて頂くのが私の使命」と固い表情。

同県出雲崎町の妙福寺(遠藤智幸住職)▽裏山の斜面が崩落、墓石が倒れる被害。
山肌が露出し巨大な岩が現れた。起こりうる危険を早めに察知し、早めに民宿に避難した。今は土嚢を積んで万一に備えているが、あくまで応急措置。18日以後も雨が降り続き予断を許さない状況で、今後の対処に頭を抱えている。
福井市泰遠寺(天津泰薫住職)▽2階部分が本堂で、主な被害は1階部分の庫裡。足羽川の決壊が時間の問題とされ、避難勧告後すぐに「93歳の母親を連れて近くの兄の家に避難した」(泰薫住職)。床上浸水してから一週間、溜まった泥の掻き出しに追われた。「宗務所から代わる代わる手伝いに来てくれ、作業を早く進めることができて感謝している」(同)。

同市本法寺(山田行英住職)▽同様に、一階部分の庫裡が床上浸水。
また一向は、浸水の被害を受けた福井市内の江守幹男全国檀信徒協議会会長宅を慰問した。
視察を終えた垣本部長は「災害を目の当たりにし、自然の脅威を感じた。被災した方々には、一刻も早く立ち直ってほしい。できる限り協力させていただく所存です」と、本宗として協力を惜しまない旨を示した。

日蓮宗全国寺院・教会・結社・檀信徒などに勧募呼びかけ
今回の新潟・福井豪雨災害で被災した寺院の復興、関係被災者の生活復旧に向け、全国社会教化事業協会連合会(旭英順会長)等でいち早く勧金の動きがあったが、このたび統一して日蓮宗で全国寺院・教会・結社・檀信徒に義援金勧募を呼びかけることが決まった。
義援金は菩提寺から各管区の宗務所を通して、郵便振替〈日蓮宗宗務院財務部00190-5-4825〉へ。振替用紙に「新潟・福井豪雨災害義援金」を明記のこと。期間は3ヶ月で、10月末日受付終了。

全国に先がけて 大阪市宗務所
義援金百万円寄託

大阪市宗務所(和田龍昌所長)は7月23日、全国に先駆けて新潟・福井豪雨に対する義援金として100万円を宗務院に寄託した。
大阪市宗務所では社会教化事業協会(佐野貫順会長)が「災害救援活動マニュアル」を作成。毎年管内の僧侶一人につき3000円以上納めていた積み立ての中から100万円を寄託することが22日の協議員会で了承され、翌日、和田所長が東京・池上の日蓮宗宗務院を訪れ、岩間湛正宗務総長に手渡した。

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