日蓮宗新聞

2025年10月1日号

日蓮宗布教院を2師が卒業

高座説教1 京都市大本山本圀寺に開設された日蓮宗布教院で卒業試験が9月7日に行われた。布教院は、高座に登り、儀式作法を伴う説法と独特な口調(繰り弁)での日蓮聖人ご一代記を修得する修行の場。今年度は8月26日〜9月9日に開かれ、1回生から9回生までの僧侶33人が入院し、そのうち東京都妙経寺住職・小山光祐師、大阪府純正寺住職・大塚泰雅師の2人が午前と午後に分かれて卒業試験に臨み合格した。

午前の高座にあがったのは小山師。院生が打ち鳴らす軽快な太鼓と聴衆の大きなお題目に迎えられた小山師は、香を焚く所作などで流れるように場を清浄し終えると、説法への座に向けて意を決したようにリンの音を3打大きく響き渡せ、唱題を止めた。同じ所作のなかで午後の登座となった大塚師はリンの3打は抑え気味。2師の高座は、リンの打ち鳴らしからすでにタイプが違った。法話で小山師が選んだテーマは「善知識」、一方大塚師は「あなたを敬う」。小山師は、一般家庭で育ち、19歳で僧侶の道を志したことから父に勘当同然になったという自身の半生を振り返る法話を展開。1人だと思っていた人生が実はお題目と法華経に護られていたことに気づいたと熱情的に語り、その後、父が僧侶の小山師とお題目の理解者に変わったと結んだ。大塚師は宮沢賢治を題材にエピソードや作品に込められた仏教・法華経思想について解説。大塚師の静かな語り口は、自分よりも他人の幸せを優先する賢治の人柄を見事に表した。2師の個性に富んだ語りで聴衆は説法の〝場〟に引き込まれていた。
法話に続き、見せ場となる日蓮聖人ご一代記の繰り弁へ。小山師は「小松原」、大塚師は「由比ヶ浜」。小山師は現鴨川市の小松原で日蓮聖人が念仏者・東条景信に襲撃を受けたシーンを身や手振り、笏を用いて大胆に表現。殉死した信徒・工藤吉隆の子で日蓮聖人の弟子となった日隆上人の出自にふれる最後の場面では、聴衆が涙を流した。大塚師は日蓮聖人が伊豆へ流罪となられたときの弟子・日朗上人との別れを情緒的に体現し、師弟の絆の強さを見事に語り上げた。小山師の繰り弁が映像のカット割りのように効果的にシーンを分ける印象に対し、大塚師は1枚の絵巻物を見るように紙を送るごとに物語が紡がれていく感覚で、どちらも祖師のご一生や繰り弁に向き合ってきた時間を感じさせた。聴衆の1人は「感動した。タイムマシンでその時代に戻ったようで、まさに感応道交の世界」と讃えた。
主任講師を務めた塚本智秀師は「院生・講師ともに熱意がこもった期間を過ごせた。令和13年に迎える日蓮聖人第750遠忌に向けて、報恩を捧げるためにはまず〝恩を知る〟こと、つまり日蓮聖人のご事績を知ることが大事。多くの人に高座説教を体験してほしい」と話した。また45歳で1回生の門を叩いた神奈川県安立寺住職の木田隆正師は「講談や落語などの伝統話芸が再評価されている昨今、その生みの親といわれる高座説教の魅力が輝く時代が来ると確信して入院した。さらなる研鑽を積みたい」と気持ちを高めていた。
布教院の14日間は、一般に開かれた高座説教が何十座も行われる場所。塚本主任は「これほどの説法の会座はほかにない。僧侶も檀信徒もともに行をする。それも布教院の魅力」と力を込めた。

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