2024年4月1日号
いのちに合掌
日蓮宗では令和4年4月から「いのちに合掌」という言葉を掲げ、『法華経』、お題目、日蓮聖人の教えの根本的な理念を世界に発信しています。この「合掌」とは単なる挨拶ではなく、法華経第20章の不軽菩薩の行いによります。不軽菩薩は、誰もが仏さまになることを信じているがゆえに、誰に対しても合掌礼拝しました。この時に不軽菩薩は「我深敬汝等 不敢軽慢 所以者何 汝等皆行菩薩道 当得作仏(私はあなたたちを軽んじず、深く敬います。なぜならあなたたちみなさまは菩薩の修行をして仏さまになられるからです)」と言いながら拝みました。ここでいう「誰もが」とは人だけではありません。動物も植物も、水も大地も、太陽の光も空気も…。つまり生物が生存するために必要な自然環境のすべてが仏となる性質(仏性)をもつ〝いのち〟を指すのです。
私たち日蓮宗徒はお題目を唱えます。実は、さきほどの不軽菩薩の言葉と「お題目」は同じだと日蓮聖人は述べられています。つまりお題目を唱えることを正行(中心となる行法)とする日蓮宗徒が「いのちに合掌」することは同じくらい大切な行いなのです。
また環境は自然環境だけではありません。人間の生活環境や社会的な状況を指す「社会環境」もその1つです。組織、制度、構造、慣習などが社会環境にあてはまります。これらを築き上げていくには長い時間と労力、人間の英知が必要です。しかし、その営みを簡単に壊し、否定してしまうものが、「いのちに合掌」の最も真逆にある「戦争」です。近年では、ロシアのウクライナ侵攻、パレスチナの武装グループハマスとイスラエルとの戦闘にはじまる愚かな行いで、ほんの少しの時間に多くの〝いのち〟が消えていっています。
「お題目」は「不軽菩薩の24字」、その「24字」を誰にでも感覚的にわかりやすく表現したものが「いのちに合掌」です。お題目を心の根底に据えて、まず第一に平和を求め、より良い社会を築くことが日蓮聖人が追い求められ、私たち日蓮宗徒に託された使命なのです。
