日蓮宗新聞

2012年1月1日号

ことぶき法話

平成24年の黎明に

千葉県市川市 本山真間山弘法寺
石野日英 貫首

この新聞は元旦号なので新たな歳を寿ぎ船出を志すような慶びの言葉ででも書き初めねばならぬのだが何度書いても考えても出来なかった。
然しそれは私だけではなく今年の年賀状からは“おめでとう”とか“賀正”とかの用語が殆んど消えてしまったとのことだ。それだけ日本国中の人々がこの大惨事を吾がことのように辛く感じているのだろう。
さて、この原稿を書きあげようとしていたある日、世界的バイオリニストの天満敦子さんより突然「お上人、そちらのお堂で供養の曲を奏かせて下さい」とのお申し出があった。
こちらは勿論犠牲のみ霊と共に名演奏を拝聴させて頂けるので一も二もなく承諾した。天満さんはそれまでにも何度か当山で演奏会を開いて頂いたご縁があった。
実は天満さんのご先祖は福島県の南相馬である。しかもこの度の大震災で津波に流され親族の3人が未だに発見出来ないとのことであった。
亡くなったのは勿論、残念無念で仕方ないが、その亡骸さへも不明であるのはどんなに亡き諸霊が浮かばれぬか、その迷っている苦しみや悔しさを思うと、その瞬間からやりどころのない怒りと悲しみが襲い涙がとめどなくこぼれてくるとのことである。
恐らく現在行方不明とされている諸霊の殆どは同じような目にあっているのだろう。
何と残酷なことであろうか、私どもも本山の朝のお勤めで毎朝、犠牲の諸霊魂の菩提を弔らい回向しているが、そんなことだけで霊の安らぎなど得られるのであろうか少々心許なくなってしまった。
フト彼の有名な金子みすずの詩の一篇を思い出した。“大漁”と云う題である。
「朝やけ小やけだ 大漁だ 大ばいわしの 大漁だ はまは祭りのようだけど 海のなかでは 何万の いわしのとむらい するだろう」
犠牲のいわしの悲しい声なき声を聞こうではないか、それが供養のせめてもの一端となるならば。知らない間に流され海の藻屑となり、土砂の下敷きになっても訳もわからず別れの一言も告げられず人目につかぬ寂しい場所へとやり置かれているご遺体。
その遺族も何とも云えぬ恨み、悲しみ、怒りをそれぞれに抱いていることだろう。
天満さんも被災地の東北へ何ヵ所もボランティアで演奏しに出向いている。奏いているうちに、これは誰のために奏いているのだろうと迷う時があるという。奏いているうちに聴衆の顔も消え、亡き祖父祖母の優しそうな顔のみが浮かんでくるそうだ。やはり亡き霊に全てを捧げているのだと感じてくるそうだ。
聴衆の顔を見ていると、皆それぞれこの大災害の悲しみに対する感じ方や思いの度合が違うのだろうと思われる。
誰にも真からの悪意はない。しかし、知らず知らずに犯している罪はこの世に生を享けてから山ほどあるはずだ。多くの人々に悲しみや苦しみを与えてしまっているのではないか。

話はかわるが私どもの本山では山務員は宮澤賢治さんの「雨ニモ負ケズ」の詩を暗記することになっている。今では山務員全員が暗誦できるようになった。
今、改めてこの「雨ニモ負ケズ」をしみじみと読み返すと何と多くの、しかも深い教えを説いてくれていることだろうと感動せざるを得ない。そしてそれは身体の中に深く染み込んで行くようだ。そしてそれは心の底で深く深く読誦した賢治であればこそ書き得たものであると思う。
故に軽々にこの詩を読むことはできない。なぜならば私達に法を、そしてお題目を説いて下さっている本仏のお釈迦さまやお祖師さまを仰ぎ見させて頂いているからだ。
かつての東北地方には賢治出生の2ヵ月前と生後5日目そして亡くなったその歳に大地震とそれに伴う大津波があった。賢治は「海岸は実に悲惨です」と書き残しているそうだ。
法華経の教えそのものを、そのままわかり易く難解な仏教用語を使わずに書いたのがこの「雨ニモ負ケズ」の詩である。
“雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモ負ケズ丈夫ナカラダヲモチ”
この一節はまさしく被災なさった方々の辛い思いとこれから頑張らねばと云う覚悟を示されたもののように思われる。
この大変な時代をふり返り亡くなられた方には成仏を祈り被災者には蘇る力を与えて頂けるよう南無妙法蓮華経のお題目を心静かに唱えて祈りたい。
頑張ろう日本!!

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