2014年2月10日号
釜石・仙寿院で避難レース
津波から即座に避難する教訓を後世に伝えるための韋駄天競争が、東日本大震災の被災地・岩手県釜石市仙寿院(芝﨑惠應住職)で2月2日に行われた節分会に開かれた。初開催となる同競争には、脚力に自信のある中学生から80歳代までの男女約50人が参加。11時半のスタートの合図と同時に、市内中心部から震災当時に避難所となった高台にある仙寿院までの286㍍を一気に駆け上がった。
優勝は、釜石中学3年の菊池聖也くん(男性の部)と同市在住の三上真江子さん(52・女性の部)。ゴールでは大勢の歓声に迎えられ、テープを切った。また歩きながらも競争に参加し、最後にゴールした佐々木多喜子さん(84・同院信徒)は震災当時、一番に同院に避難し、一ヵ月避難生活を続けた一人で、「走ることはできないけれども、参加することで恩返しをしたかった」と語った。
優勝者二人のほか男女各上位3位までが今年の福男、福女となり、午後から営まれた節分会追儺式に参列し、豆まきを行った。
東北に伝わる「津波てんでんこ」という言葉は、津波が来たらなにこれ構わずに逃げろという先人が残した教え。この教えを後世に伝え続けるために、企画されたのが韋駄天競争だ。企画したのは震災を機に結成された釜石市出身者からなる東京在住者のグループ「釜石応援団」。芝﨑住職が、仮設住宅などでの傾聴活動で助かった人のほとんどが、「津波てんでんこ」の教えを素直に守った人だと感じていたところ、同応援団に所属する檀徒の一人に韋駄天競争の話を持ちかけられた。「企画のノウハウは何もなかったが、大切なのはもう二度と津波で犠牲者を出さないこと。この100年の間に、避難が必要だった津波は4回あった。未来永劫このイベントを続け、とにかく避難所まで逃げれば助かるということを永久に意識づけたい」と芝﨑住職は語る。
また前日には仮設住宅で豆まきが行われ、3年目で初めて閉じこもっていた檀徒が顔を見せてくれたという。芝﨑住職は「やっと出てきてくれたか、というと〝せっかく来てくれたのに顔を出さないわけにはいかない〟とやっと笑顔を見せてくれて、うれしかった」と目を細めた。まだまだ厳しい状況が続くが、被災地にも少しずつ本当の春がやってきているようだ。ただし、芝﨑住職のように常に、そして何度でも被災者に寄り添ってこそ、その結果がある。すべての人びとが被災地に寄り添えば、「本当の春」は来る。