2012年5月1日号
被災者の心に寄り添って生きたい
長崎から被災地・岩手大槌町へ移住
長崎県大村市大法寺(松本玄経代務住職)の僧侶で医師の宮村通典師(66)が、「医師、僧侶として被災者の心に寄り添って生きたい」との思いを胸に、東日本大震災で被災した岩手県大槌町に向けて、看護師の資格を持つ妻の洋子さん(59)と共に、長崎を4月5日に出発した。
宮村師は大震災以後に二度、大槌町に住む親類を見舞った際に、大震災の生々しい惨状を目の当たりにして心が痛んだ。また現地で被災者の救護に励む医師や、津波で全壊したため、現在は仮設の建物で運営されている県立大槌病院が医師不足に悩んでいることも知り、「この地に住み、お手伝いができないか」と現地支援を決意。知り合った現地の医師に気持ちを話すと、思いが岩手県に伝わり、今回の移住、支援勤務となった。
宮村師は、長崎大学医学部卒業後、九州大学医学部心療内科勤務を経て、博多駅前で内科胃腸科クリニックを開業。一方、信心深い両親の影響を受け53歳で出家し、身延山・樋澤坊に寄宿しながら身延山大学で行学に励み、僧侶となった。さらに大阪の真如寺(植田観樹住職)で数年、僧侶としての活動を経て、57歳となった平成14年から、故郷の大村市中澤病院に復帰し、副院長として医療活動に従事していた。
今回の新たな転機となったのは、昨年4月に大村市大法寺で住職をしていた弟の宮村通経師が肺がんによって遷化したことも大きい。「この世の無常を感じた。人間の命は、いつどうなるか分からない。今、しなければいけないことは何なのか」。命についてもう一度見直したいとの強い思いが込み上げてきたという。
大槌町からの見舞いの帰途、花巻市にある宮沢賢治の墓に参った。「雨ニモマケズ」の一節「東ニ病気ノコドモアレバ…」が思い浮かび、「行動しなさい」と諭されていると感じたという。「患者に向き合うことはもちろん、亡くなられた方々の供養にも携わりたい」との思いも強い宮村師は、全壊した大槌町蓮乗寺(木藤養顕住職)へ一日も早い復興を祈り玄題旗を持参する。
同県医師支援推進室によると、現地ではPTSD(心的外傷後ストレス障害)や長引く仮設住宅生活でストレスを抱えた人も多く、うつ病、引きこもり等の精神的な苦しみをかかえる被災者に、心のケアの重要性が増している。僧侶であり、心療内科を専門とする宮村医師への期待は大きい。