日蓮宗新聞

2010年1月1日号

ことぶき法話

静岡県伊豆市本成寺住職
森久 寿隆師

子どもの頃、歳の暮れになると、母が夜遅くまで台所に立って、おせち料理を作っていた思い出があります。
私の実家は、家具の製造業を営んでいましたので、父はもちろん、母も大晦日前日まで仕事をしていました。現代で考えると、ずいぶん遅くまで仕事をしているように感じられる読者の方もいらっしゃるかも知れませんが、昭和30年、40年代当時は、これが普通だったと記憶しています。そんな中でも母は、仕事中から、終えてからの深夜まで。時には夜なべ(今では徹夜と言うのでしょうが)をしながらでも、元旦の朝には、重箱に入った「おせち料理」を用意してくれました。子どもの頃には、それが当たり前に感じられていましたから、親の心子知らずと言えるでしょう。
けれども、母が亡くなってからは、その当たり前もなくなり、元旦の朝の卓上には、年賀状の束だけがあります。
最近、デパート、スーパーマーケット、コンビニエンスストア等の店頭では、「おせち料理」の予約争奪戦が繰り広げられています。高級料理店のものから、安さを打ち出したもの。はたまた、これが「おせち料理」なのかと疑う食材を使ったものもあります。これも現代なのかと考えましたが、それでは、本来の「おせち料理」とは、どのようなものだったのか調べてみました。
「おせち料理」を漢字で書けば「御節料理」となり、御節は御節句の略です。正月に「おせち料理」を作るのは、正月の間、竈の神さまと女性(主婦)を休めるためという俗説もありますが、本来は、正月に物忌みをして、火を使うことをできるだけせずに暮らすための料理です。料理の基本はお屠蘇とお雑煮の他に、
一、祝い肴(3種)
二、酢の物
三、煮物
四、焼き物
五、口取り
の5種類があります。そして、これらの料理を、めでたさを重ねるという縁起をかついで、重箱に料理を詰めて重ねるのです。伝統的な重箱は五段。数え方は、一の重、二の重、参の重、与の重、五の重と数えます。
一の重には、祝い肴3種と口取りを納めていました。祝い肴とは、関東では、田作り・数の子・黒豆の3種。関西では、たたき牛蒡・数の子・黒豆の3種となります。口取りとは、伊達巻き(伊達は華やかさ、金色)、きんとん(漢字では金団と書いて、金が集まる)、昆布巻き(喜ぶにちなんで)、紅白のかまぼこ等を言います。
二の重には酢の物を納めます。人参の赤と大根の白を使い、祝いの紅白の水引を表して、なますを作り納めます。
参の重には焼き物を納めます。めでたい「鯛」、出世魚の「鰤」、「海老」は、ヒゲがのび腰が曲がっているところを老人に見立てて、長寿を願い、焼いて納めます。
与の重には、煮物。「くわい」(大きな芽が出るので、めでたい)、「牛蒡」(大根などと同じで根野菜は一家の土台をしっかり)、「里芋」(親芋から子芋が取れるので、子孫繁栄)、「蓮根」(先の見通しが良い)という願いをこめて作っていたようです。祝い肴に使っている数の子(子孫繁栄)、黒豆(まめまめしく働けるように)、田作り(江戸時代の高級肥料として片口鰯が使われていたので豊年満作)も同様なのです。
最後に一番上に乗せる五の重には、何が入っていたでしょうか?
答えはカラです。すべての重箱に品を納めてしまえば、それ以上は増えないという考え方です。富豪家から一般庶民まで、新年がさらに豊かな一年となることを願い、五の重は、何も入れずに新しいものが入る余地を設けておく心から出た習慣なのです。
昔の人は、病気や自然災害に対して無力でした。病気に有効な薬はなく、台風や嵐を予想することもできませんでした。ですから自然の摂理に対して敏感に反応をし、神仏に対しての畏敬を忘れず、暮らしていたのでしょう。五段目を空けておくということは、私たちの祖先が、私たち現代人に対して伝えてくれた教えではないでしょうか。
現代人は、五段目にも何かを納めるでしょう。無理をしてでもいっぱいに納めるでしょう。それが、現代病と言ってもよい、損得勘定で生きることに通じているのではないでしょうか。
この地球の物質的なものすべてに限りがあります。損得だけで考えることはそろそろ封印して、善悪を柱にして、自然の摂理に従った生き方をしていきませんか。それこそが宗祖日蓮大聖人が示された、お題目に生きることだと思うのです。

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