日蓮宗新聞

2004年3月10日号

三百一日をかけて法華三部経を完成

「あの時、写経を知らなかったら鬱病になっていたでしょうね」――。
昨年9月21日、京都府丹後町妙源寺(藤崎一明住職)に、井桁に橘の生地で表装された巻子本十巻にわたる法華三部経が納められた。その中には「無量義経」「法華経」「観普賢菩薩行法経」の約8万字が、その大きさ、太さ、筆勢を少しも崩すことなく整然と書写されている。一見しただけで、精神を集中して筆を進める緊張感と、一文字一文字に込められた思いが伝わってくる。
観普賢菩薩行法経の巻末に記された願文の中には「景秀院妙淨日延大姉之菩提之為」の文字。50年以上連れ添った妻に先立たれた夫が、妻の菩提を弔うために行った写経だ。

東京都大田区在住の橋本久男さん(76)は平成13年、ノブ子夫人を77歳で失った。それまでは、伴侶に先立たれたショックで急に老け込んでいく友人達を見て、励ましの言葉をかけながらも自分はそこまで落ち込むことはないと思っていた橋本さんが、我を失った。まさに“茫然自失”。ふと、生前ノブ子夫人から言われた言葉を思い出したのは、部屋に閉じこもる生活が4ヵ月続いた頃。「藤崎さんのお寺に納経して欲しい」。橋本さんはノブ子さんのためにと筆をとった。

藤崎住職と同級生
橋本さんと藤崎住職は、立正大学仏教学部で机を並べた同級生。家族ぐるみのつき合いを続けていた。退職後に写経を始め、藤崎住職や同じ同級生の横田英学師(和歌山市一乗院住職)から教わりながら、それまでも菩提寺の横浜市妙福寺や池上本門寺に納経をしていた橋本さんだったが、その時の写経は「それまでとはまったく違った」。“ノブ子さんのために”と始めたはずなのに、一文字一文字進めるごとに自分が救われていく。悲しみは深いままだったが、自分を取り戻し、少しずつこれからの生活に前向きな気持ちになれた。

心遣いに涙
三百一日をかけて三部経を完成。足腰に自信がなかったため、京都まで宅配便で納経をすまそうと考えていた橋本さんだったが、「何としても出てこい」という藤崎住職の誘いに、持参することを決意。ノブ子さんが亡くなってから初めての旅行となった。そっと置いて来るつもりで到着した橋本さんを、藤崎住職と檀信徒30人が出迎え、納経会法要が営まれた。「私よりも檀信徒の皆さんの方がネクタイをしめてきちんとした格好でした」。温かい心遣いに涙が流れた。

現在、橋本さんは5回目の法華経写経に挑戦している。朝のお勤めを終え、朝食や洗濯などの家事を終えた後、目の疲労が少ない午前中のうちに机に向かう。まず、お経文を訓読で読んでから筆をとる。5回目だが「まだまだ意味は理解できません」。
「一人ですが、時間を持て余したことは一度もないですよ」。
法華経の教えを心に写し取る写経。菩提を弔われる故人だけでなく、生きている私たちにも大きな功徳を与えてくれる。

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