日蓮宗新聞

2009年12月10日号

いのちのシンポジウム「21世紀仏教-危機と挑戦-」

人類の課題解決へ仏教の可能性探る

仏教は現代社会が直面している問題にどのような解決の道筋を示すことができるのかーー。いのちのシンポジウム「21世紀仏教ー危機と挑戦ー」が10月26日、京都市本山立本寺(上田日瑞貫首)で行われ、僧侶・檀信徒・一般参加者約300人が聴講した。ハーバード大学世界宗教研究所所長のドナルド・スウェアラー博士は基調講演で、「諸問題は私たちが足ることを知っていたらあり得なかった」と述べ、解決の糸口として仏教原理の重要性を指摘。続いて、武見敬三氏(日本国際交流センターシニアフェロー)と岡田真美子氏(兵庫県立大学教授)が加わり、柴田寛彦師(秋田県本澄寺住職)をコーディネーターにシンポジウムが行われ、人類の課題解決に向けた仏教の可能性を探った。
本堂で小松浄慎宗務総長を導師に法味を言上し開会。はじめに東洋仏教研究の権威であるスウェアラー博士が基調講演を行った。
スウェアラー博士は、人類が直面している危機を環境・経済・生命の三つの項目に分け、それぞれ仏教的な見地から考察。環境の項目では、草や木、土地自体も悟りに至ることが可能であるという仏教の世界観について述べ「動物も植物も救済されるというのは、人間以外の生命体にも価値があると考えてるから。現在環境を破壊しているのは人間であり、これを解決することが責務」と言及した。
また、「空前の発展を遂げた数10年を経て、私たちは多いこと、過剰さが必ずしもよいことでないことを学んだ。経済成長がもたらす豊かさは、必ずしも私たちを幸福には導かない」とし、「仏教では経済システムがいかに倫理的・精神的な開発にとって有効であるかが問題であり、それが貪・嗔・痴の三毒を成り立たせず、寛容や慈悲、智慧といったものを触発するかが重要。仏教は貧しさを奨励するものでも、富を中傷するものでもない。苦行と富の放縦の狭間にある“中道”とは、単に渇望を満たそうとする私たちの通常の先入観からの解放を可能にする理解と洞察を目的とするもの。人々は競い合い、できるだけ多くのものを得ようとしてきたが、そのことこそ私たちが今日直面している問題をもたらした。私たちが足ることを知っていたならば、それらの問題はあり得なかった。必要なことは、必要以上に得ようとせず、過剰さを慈悲心から分かち合うことができるようにすること」と述べた。
「生命」の項目では臓器移植や堕胎、安楽死、クローンなどの問題について、日系米人仏教学者のウィリアム・ラフルール氏のエッセイを引用。「彼の主張では、欲望が鍵となって人間増強の風潮が高まり、社会経済自体がこの欲望を増長させ、さらに悪化させていくという。仏教徒にとって欲望は人間の根本の問題。欲望の存在を受け入れどう処理するかが心の発展に重要なのです。欲望が人と社会の苦の原因になっているとは、仏教の基本的な教えです。人間改造の場合も、インフォームドコンセントなどのように、特定の倫理的な立場から検討することが望ましいが、仏教の精神修行によって、数ある欲望の中で何を許し何を許さないかの線引きをどこですべきかが求められる」と述べた。
スウェアラー博士は、いずれも仏教の根本的な教えが諸問題解決の糸口になるとし、最後に「横で傍観していてはなりません。21紀の諸問題に積極的にいかなければなりません。これらの解決法は政治家や経済学者、科学者、技術専門家のみならず、宗教的・精神的な考え方を以って人間環境を理解し、繁栄のための生態系を築き上げることを目指す人の力にもかかっている」と締めくくった。
続いて「人類の直面する世界的な諸問題(環境・平和・いのち)の解決に仏教はいかに貢献しうるか」と題しシンポジウム。はじめにパネラーとして加わった武見氏と岡田氏が発言した。
武見氏は、今日の国際課題に対処していくためには、従来の国家を中心に据えた考え方では不十分な時代となり、個々の人間の生存・生活・尊厳に対する広範かつ深刻な脅威から人々を守り、それぞれの持つ豊かな可能性を実現するために、一人一人の視点を重視する「人間の安全保障」という考え方が必要であると発言。その基本単位となるコミュニティーにおいてお寺や仏教が大きな役割を担っていると期待した。
岡田氏は、脳神経倫理学では人の行いを左右する道徳感情が、好きか嫌いかを判断する場所に関係していることを述べ、無理なく繰り返し実践して心に深く働きかけ、私たち一人ひとりが価値基準を転換していくことが必要。それには仏教の役割が大きいと述べた。
次に、コーディネーターの柴田師が、自然と人間の関係、いのちのとらえ方などをそれぞれ問いかけていく形でシンポジウムが進められた。
スウェアラー博士は「仏教はいのちの内面と外面世界の相関性を一貫して即時に確立できる。地球危機の解決へはとにかく原点に帰り、それに新しい解釈を加えて行動すること」と述べた。岡田氏は「欲を一つでも叶えることを良しととする考えから、欲を八分目にして残りを他の人に与える幸せがあるんだという価値の転換をはからなければいけない」と説き、一つの例として自らのダイエット体験を紹介。やせていく姿を見て学生も次々とダイエットを始め、満腹=幸福の価値基準が変わったこと、実践し示していくことの大事さを伝えた。武見氏は「私たちも自然の一部であり、謙虚な気持ちでいること。人類は知力、精神性を持つ生命体。地球全体を考えて生態系を維持する新しい仕組みをもう一度考えていく責任が人類社会にある。人間観の再構成が必要であり、仏教には人類社会で貢献しうる人間観がちりばめられている」とした。
最後にスウェアラー博士が「二つの重要な点を示して締めくくりたい」とし、「一つは、自ら実践して示し人の模範となることは、誰かを変えようと思ったり我々それぞれが思うよりも大きな影響力を持つこと。二つ目は、コミュニティーを形成しそこに属することが大きな力となる」と述べた。
シンポジウムの後には、第二部として「いのちのコンサート」が行われた。小児ガンを乗り越え命と真正面に向き合いながら歌い続けるシンガー・ソングライターより子さんの澄んだ歌声と、二胡奏者ウェイウェイウーさんの琴線を振るわせるメロディーが夕暮れに包まれた本堂で参加者を魅了した。

illust-hitokuchi

side-niceshot-ttl

写真 2023-01-13 9 02 09

新年のご挨拶。

過去の写真を見る

全国の通信記事

  • 北海道教区
  • 東北教区
  • 北陸教区
  • 北関東教区
  • 北関東教区
  • 千葉教区
  • 京浜教区
  • 山静教区
  • 中部教区
  • 近畿教区
  • 中四国教区
  • 九州教区

ご覧になりたい
教区をクリック
してください

side-report-area01 side-report-area02 side-report-area03 side-report-area04 side-report-area05 side-report-area06 side-report-area07 side-report-area08 side-report-area09 side-report-area10 side-report-area11_off side-report-area12
ひとくち説法
論説
鬼面仏心
購読案内

信行品揃ってます!

日蓮宗新聞社の
ウェブショップ

ウェブショップ
">天野喜孝作 法華経画 グッズショップ
">取扱品目録
日蓮宗のお店のご案内
">電子版日蓮宗新聞試読のご登録
">電子版日蓮宗新聞のご登録
日蓮宗新聞・教誌「正法」電子書籍 試読・購入はこちら

書籍の取り扱い

前へ 次へ
  • 名句で読む「立正安国論」

    中尾堯著
    日蓮宗新聞社
    定価 1,365円

  • 日蓮聖人―その生涯と教え―

    日蓮宗新聞社編
    日蓮宗新聞社
    定価 826円+税

書評
正法
side-bnr07
side-bnr07