論説

2025年1月20日号

再び寺院を「通いの場」に

かつて寺院は人びとの「通いの場」であった。そして今、再び寺院の持つ特性を活かした取り組みが期待されている。
今日「通いの場」の名称は、高齢者をはじめとする地域住民が主体となり、介護予防やフレイル(健康な状態と要介護状態の中間の段階状態。予備能力低下で身体機能障害に陥りやすい状態)予防などを目的とした体操や茶話会など多様な活動を行う場をさす。住民同士のふれ合いを通して生きがいや仲間づくりの輪を広げて地域の介護予防の拠点となる場でもある。
国の動向を確認すると「共生社会の実施を推進するための認知症基本法」が令和6年1月1日から施行。さらに認知症になっても社会参画しながら希望を持って生きられるとする「新しい認知症観」を打ち出し、同年9月には認知症施策推進計画案がまとめられた。
筆者の住む埼玉県下にあっては行田市が認知症の人びとと共生する社会を実現するための施策の柱として「予防」「啓発」「共生」の3つを掲げ、「通いの場」への移動支援などを本年2月から開始する。同様の動き、あるいは各種団体などと連携した取り組みは全国各地で展開されている。
宮崎県都農町役場は、日蓮宗寺院の龍雲寺(吉田憲由住職)を会場に令和5年から「認知症カフェ」を開催。同町では寺院や神社を会場に年4~5ヵ所で実施している。特筆すべきは寺院側からのプレゼンテーションを行っている点である。日蓮宗ではなじみ深い法華和讃に童謡をクロスさせたレクリエーションを担当している。「読む×歌う×叩く」という認知症マルチトレーニングとしてもうちわ太鼓は効果があるとのこと。参加者が童謡の歌詞を見ながら歌い、うちわ太鼓を縁うち、胴うちしながら叩く、緊張した面持ちが唄い終わると大声で笑い和やかな雰囲気が本堂をつつむ姿は、同寺のSNSで観ることができる。
実施にあたり、公共の事業として告知し、誰もが参加できる行事のため特定の宗教儀礼にならない工夫が求められた。そこで「ふるさと」や「夕焼け小焼け」の2曲を選び太鼓の打ち方を考案したという。参加者の5分の4は一般町民だが、リピーターが多い。
他方、地域社会にあって「ひとりぽっちをつくらない」「バラバラをつなげる」取り組みの1つとして、定年後の男性の居場所づくりを展開する地域がある。大阪府豊中市社会福祉協議会の勝部麗子さんはコミュニティーソーシャルワーカーの第一人者。彼女が懸念したのは定年後の男性の生活や行動形態だった。通いの場やサロンでの料理会や茶話会に参加しても男性は用が済むとすぐ帰り、会話を楽しんだり、弱音を吐いたりすることが苦手な傾向に気づき、ひきこもりや孤立へつながりやすいと感じた。そこで共同農園の運営を企画した。
競争社会で生きてきた彼らの特性を活かし、役割と作業分担を行った。農作物は成長が分かり易く作業意欲が向上する。また野菜づくりと地域づくりを組み合わせた工夫も行った。例えば収穫野菜をこども食堂へ寄付する、収穫を子どもや車椅子の利用者、認知症の人と作業し地域福祉に貢献し共存社会の一員としての居場所を確かなものとした。勝部さんは、常に相手を尊重し、信じ寄り添いながら、その周囲にいる住民や行政、専門職などを繋いで解決方法を探るという。寺院の在り方にも通じる姿を感じる。
寺院には、教え・時間・空間・人的な資本があると立教大学社会デザイン研究所研究員の星野哲氏は指摘する。また僧侶には、気づき・寄り添い・行動を期待し地域交流のパイプとなれる強みがあるとも述べている。さまざまな人をつなげることができる寺院は「通いの場」として再起動できるのではあるまいか。人は孤立しては生存できない。自他がそれぞれに特性を持つ存在であり、個々のいのちが響き合っていのちの和音を奏でる。「共生」とは「響生」とも書き表せる。(論説委員・村井惇匡)

illust-ronsetsu

2024年12月20日号

師への報恩―明年は道善房750遠忌―

日蓮聖人(1222~82)の仏弟子としての歩みは、12歳の出家、そして16歳の得度にはじまります。
仏道修行の場所は、聖人が誕生された安房国長狭郡東条郷(現・千葉県鴨川市)に伽藍をほこる天台宗系の千光山清澄寺(通称清澄山)でした。そして、出家・得度の師匠は道善房で、兄弟子の浄顕房と義浄房の2人が、聖人の「幼少の師匠」でした。
聖人が佐渡流罪の赦免後、身延山へ移られたのは、聖人53歳の文永11年(1274)5月のことです。翌文永12年は「建治」と改元され、この年『撰時抄』と名づけられる著書を「釈子日蓮」というご署名のもとに、執筆されています。和文体の110紙からなる長文の著書で、その大部分のご真筆が玉沢・妙法華寺(静岡県三島市)に護持されています。
本書は、久遠の釈尊が、末法の時代、娑婆世界の人びとを救済することを目的として、最もすぐれた尊い教えである南無妙法蓮華経のお題目を、久遠の弟子(本化の菩薩)に手渡されていることを、釈尊滅後のインド、中国、日本の3国仏教史の視点から詳しく論述された著書です。
翌建治2年(1276)、聖人のもとへ故郷の清澄寺の道善房が3月16日に遷化されたことが報らされました(『新編日蓮宗年表』27頁)。そして、この訃報から4ヵ月あまりの後、「建治二年太歳丙子七月二十一日」の日付のもと、「甲州波木井の郷、蓑歩の嶽より、安房の国東条の郡、清澄山浄顕房、義城房の本へ奉送す」(『昭和定本』)という「奥書」のある追悼文『報恩抄』1巻が弟子の佐渡公日向上人によって届けられることになります。道善房の遷化に対し、聖人は、「火の中、水の中に入っても、馳せ参じて、師の墓前にぬかずいて、聖霊の安らかなことを祈って法華経の一巻でも読誦したい」、と願われたようです。
けれども、聖人は佐渡流罪後、鎌倉、さらに身延山へと向かわれたのですから、周囲の人びとにとっては、聖人は昔の賢人、聖人のならいとして「遁世」されていると思われていることから、「いかにをもうとも、まいるべきにあらず」と、決断されたのです。
このような経緯から、故道善房の墓前に追悼文として1巻の書『報恩抄』を捧げ、弟子の日向上人に奉読することを依頼されていることが知られるのです。
日蓮聖人は、『報恩抄』の冒頭に、人として自己をはぐくんでくれた故郷、そして恩ある人たちへの感謝をけっして忘れることなく、それらの人びとへの「報恩」こそ仏道修行者の歩むべき行為だと明言されます。そして、真の報恩は、自己が仏教の教主釈尊のみこころを知る者、すなわち「智者」となることにある、と結論づけられています。
そして、これまで伊豆流罪・佐渡流罪を色読された日蓮聖人の法華経の行者としての功徳を、旧師道善房へ捧げられることを明記され、『報恩抄』は結ばれています。
このように、日蓮聖人の亡き道善房に対する「回向」の文を拝しますと、私たちも、みずからの人生を、恩ある人たちとの関連性のなかでしっかりと捉え、報恩の一分を果たせるよう生きたいものです。
明年は、道善房の第750遠忌であり、『報恩抄』ご執筆750年の尊い節目に当たることを思いつつ、筆を進めました。
(論説委員・北川前肇)

illust-ronsetsu

2024年12月1日号

人口減少社会と仏法

少子高齢化と人口減少は、日本における喫緊の課題である。
少子高齢化と人口の減少は社会全体にさまざまな影響を及ぼす。労働力の減少は経済の停滞につながり、社会保障を支えている働き盛りの人口の減少は、医療や年金などの社会保障制度の根幹を揺るがすことになる。
長寿高齢化と人口減少は、デメリットばかりではない。ごみ問題や大気汚染など環境負荷の低減、住宅・土地問題や交通渋滞など生活環境の改善には利するところがあり、一人当たりの社会資本の増加、少数を対象とした高質の教育の実現や受験戦争の緩和など、メリットもある。
出生率の増減には、さまざまな社会的な要因がかかわっている。終戦直後にベビーブームで急激に人口が増え、彼らが成人したころには、第2次ベビーブームが起こったなどが一例である。
近年の出生率低下や人口減少はさまざまな要因の複合的結果であると指摘されている。学費や養育費の増加、長時間労働、高学歴化、晩婚化、未婚化、雇用形態の流動化、時間外労働、低賃金、ひとり親世帯・高齢者・障がい者支援の不足による出産の阻害、離婚率の増加などである。
それに対して、育児休暇制度の拡充、出産後の再就職支援、保育施設の拡充、結婚の支援、婚姻制度の見直し、出産・育児を支援する制度の拡充、高齢出産・不妊治療医療技術の開発支援などの対策が講じられているが、芳しい成果が得られていないのが現状である。
私が本稿で考えたいのは、人口の増減と仏法との関連である。人間がこの世に生を受け、成長して活動し、年老いて世を去るのと同じように、この世界や宇宙全体も、生まれて一定の期間存在した後、衰退して無に帰するという、いわゆる成・住・壊・空の四劫を繰り返し循環しているというのが、仏教的世界観である。
釈尊が出現したのは、住劫の第9番目で、人の寿命が8万4千歳から次第に減じて100歳になった時であったとされる。以来、100歳から100年ごとに1歳を減じて10歳になるまでの1万年の中間に、仏の在世50年と、入滅後の正法千年と、像法千年と、末法万年とがあり、現在は末法万年の中を進行中であるとされる。ということは、四劫の中で現在は寿命が短縮する時代であるということになるが、平均寿命が延びている現状と必ずしも一致しない。
地球を含む太陽系は約50億年後には太陽の爆発とともに消滅し、人類も地球と共に絶滅するという予測がある。人類は地球と運命を共にして、現在住劫の只中にあるが、遠い未来とはいえ、いずれは壊劫を経て空に至るであろうことは、あり得ることである。しかし、現今の人口減少が壊劫に至る入口の現象ととらえることには無理がある。
一方、日蓮聖人は「国に正法を誹謗する声があると人民はその数を減らす」という伝教大師の言葉を引用している。国に謗法が蔓延すると、人口は減少するというのである。現今の状況が謗法と関連する可能性を深刻に考慮しなければならない。
若者が減り、人口が減少することは、法華経を信受する者の数が減るということであり、信仰を相続する者の数が減少するという由々しい事態につながる。地涌の菩薩たちが、絶えることがなく地から涌き出てくることを願う。お題目を受け継ぎ、次世代にバトンタッチする後継者の子孫が絶えることがないことを心から願う。人口対策は、現代に生きる私たちに課せられた大きな課題であると同時に、本宗にとっての課題でもある。
(論説委員・柴田寛彦)

illust-ronsetsu

side-niceshot-ttl

写真 2023-01-13 9 02 09

新年のご挨拶。

過去の写真を見る

全国の通信記事

  • 北海道教区
  • 東北教区
  • 北陸教区
  • 北関東教区
  • 北関東教区
  • 千葉教区
  • 京浜教区
  • 山静教区
  • 中部教区
  • 近畿教区
  • 中四国教区
  • 九州教区

ご覧になりたい
教区をクリック
してください

side-report-area01 side-report-area02 side-report-area03 side-report-area04 side-report-area05 side-report-area06 side-report-area07 side-report-area08 side-report-area09 side-report-area10 side-report-area11_off side-report-area12
ひとくち説法
論説
鬼面仏心
購読案内

信行品揃ってます!

日蓮宗新聞社の
ウェブショップ

ウェブショップ
">天野喜孝作 法華経画 グッズショップ
">取扱品目録
日蓮宗のお店のご案内
">電子版日蓮宗新聞試読のご登録
">電子版日蓮宗新聞のご登録
日蓮宗新聞・教誌「正法」電子書籍 試読・購入はこちら

書籍の取り扱い

前へ 次へ
  • 名句で読む「立正安国論」

    中尾堯著
    日蓮宗新聞社
    定価 1,365円

  • 日蓮聖人―その生涯と教え―

    日蓮宗新聞社編
    日蓮宗新聞社
    定価 826円+税

書評
正法
side-bnr07
side-bnr07