論説
2024年11月1日号
生きて 活きて 逝きて
国の礎を造るのは宗教であり、未来の社会を作るのが政治です。近年の宗教も政治も大衆迎合主義(ポピュリズム)に陥り、メディアが生み出す気分や風によってすべての事象が希薄なものへと推移していくようです。加えて、若者の宗教、政治離れも顕著です。寺院の衰退、投票率の低さは、国の将来に対しての期待を喪失させていく現れとも思われます。
一方、人工知能(AI)の進歩は凄まじく、私たちの生活様式を変え、「人間は自分たちの創った機械やロボットにやがて支配される」ということが現実になってきました。政治も経済も戦争もAIに依存し、人の大切な意志やコミュニケーションが疎かにされています。このままでは国や人類の未来はどうなるのか、正しく末法万年の時代に入っているのか、誰もが心配はしていても、何もせず不安に慄いているばかりです。
仏教の教えもAIが学習し、情報を収集し、分析して、自動音声で解き明かしてくれるでしょう。教義の内容、深さ、表現の巧みさなどを私たちが利用しているうちに、誰もAIにかなわなくなります。そうすると布教するための坊さんはいらなくなるでしょう。そしてAIは「仏教はすべて学び終えた、悟りも得た。今日から私は仏だ、日蓮だ」と言い出すかもしれません。もうこのAI信仰は元には戻れません。それを軌道修正するのが宗教と政治の役目でしょう。しかし、今般の政治の様相からして、とても国の未来を考えているとは思えません。だからこそ宗教の出番がやってきたのです。
秋を迎えた全国の日蓮宗寺院では、日蓮聖人ご報恩のお会式法要を営み、法華経信仰の大切さを説き、歴史と伝統を継承しています。これもやがてAIに取って代わられるかもしれません。だからこそ、AIにはない、人としての生命、感情、魂など「いのちとこころ」を持って、私たちは法華経の信仰者としての蘇りを果たさなければなりません。
日蓮聖人は「妙とは蘇生の義なり。(略)法華経は死せる者をも治す。(略)仏になりがたき者すら尚仏となりぬ」(『法華題目鈔』)と仰っています。私たちは得難い生命を受けて生き、法華経、日蓮聖人に出会い、有難い信行に活き、お題目に送られて逝きます。このささやかな人生を過去から未来までの久遠の時間のなかで想像力と創造力を逞しくして、日々に新たに蘇り、仏道を生きてこそのお題目の修行だと思うのです。
そのためにいま取り組んでいるのは、宮沢賢治の遺言にあやかって、法華経信徒の皆さまに「妙法蓮華経」を届けたいと、日蓮宗新聞社の協力を得て、長崎教化センターのメンバーで、5年がかりで校正を重ね、真読と訓読のセットの経本を発刊しました。なるべく多くの皆さまに手に取っていただきたいと、真訓セットで5500円(税込)の安価で、読みやすい装丁で制作しました。賢治は「私の全生涯の仕事は此の妙法蓮華経をあなたのお手許に届け、其の中にある仏意に触れて、あなたが無上道に入られんことをお願いするの外ありません」と残しています。日蓮聖人は「所持の法華経いかでか彼の故聖霊の功徳とならざるべき」(『浄蓮房御書』)と仰っています。
私たちの先祖の功徳を未来の利益とするべく、希望の見えない将来に、AIの対極にある紙媒体の「妙法蓮華経」がAIを超えて、人から人への手に伝わり、便利な幸せではなく、真の幸福はとは何かを見つけてくれるものと信じて、最期の仕事としてやり遂げて逝きたい思っています。ぜひ、手に取ってみて下さい。お申し込みは日蓮宗新聞社へ。
(論説委員・岩永泰賢)