論説

2025年7月1日号

『法華経』と龍

干支には龍があり、法華経は龍の経典といわれるほど、序品から難陀龍王、跋難陀龍王、娑伽羅龍王、和修吉龍王、徳叉迦龍王、阿那婆達多龍王、摩那斯龍王、優鉢羅龍王と天龍八部衆としての八大龍王が登場する。提婆達多品第12には、娑伽羅龍王の娘である龍女の話が女人成仏として説かれている。
仏閣神社の付近や山の上空の雲、水行の水、お焚き上げの火などの写真を撮影して、檀信徒が「携帯で撮影しました。龍に見えませんか」と、空に浮かぶ白い雲や水や火が何となく龍に見えるような写真を見せに来ることがある。これらの多くの写真はパレイドリアといわれる心理現象で、例えば火星の人面岩などのように、人の顔のように見えたりするケースである。
しかしごく一部だが、誰が見ても龍の顔や胴体や鱗までがある姿が写し出される写真や、異常に巨大な三重瞼の龍の眼の写真が撮影されたりすることもある。また体中に雷をまといながら滝の上からゆっくり降りて、雷を食べながら、再び登っていく白い龍の姿を夫婦で目撃したことを描いた画家もいる。高校2年生の時に道路幅もある巨大な龍の顔を目撃したという人は、周囲の時間が止まり、土手の上で自転車に乗っていた近所の人がペダルに足を乗せたまま動くことができず、怖さと驚きのあまり、髭が人の胴回りもある龍がパクパクと口を開いて何かを語りかけてきているが、その言葉も耳に入らないほどだったと話す人もいる。日蓮聖人の伝記でも元寇の際には、「十界の龍を全て対馬に送り込み巨大な竜巻を起こした」という逸話が残されている。
私たちの大半の知識は〝信頼〟に依るもので、自分の体験から得られるものではない。夢枕に仏神が出て来られて何かを告げられた体験をした人も多い。自分で体験せずとも、こうした体験をされた人の言葉を信じたりするのである。私たちが『法華経』という経典に向き合うときにも、龍の存在は人が思弁的に勝手に想像して作り上げたものでも比喩や寓話でもなく、この次元ではない眼には見えない別の次元に確かに存在し、時折私たちの前に姿を現わしてくれる存在と考えてみる。
すると金銭や利得、名声や名誉地位などを追い求める名聞利養の執着心のぎすぎすした世界観ではなく仏教的な存在論や広い心が養われると思えてならない。
個人的な体験だが、僧籍を取得する前の10代の頃に、餌付けではなく野生の雀と話ができ、手や頭に乗せている女性と知り合った。また一輪挿しにあるうなだれていたチューリップとも対話して、みるみる元気にする姿を目撃したこともある。「このチューリップは私がアパートを引っ越しするので置いていかれると思っていたから、お前も一緒に連れて行く」と伝えたとその人は話した。人は道端の樹木や雑草、意思がないと思われる小石とも対話ができ、感応道交できるのだと教えてもらった。
そもそも、諸仏世尊が世に出現された理由は衆生に仏知見を開かしめ、それを示し悟らしめ、その道に入らしめんとの一大事の因縁であると説かれている。
度量衡で測ることのできない、未だ数値化できない仏教思想に現代科学が追い付いていないのが実情だろう。目に見えない真実の世界にこそ物事の本質があり、その仏知見を日蓮聖人や法華経が解き明かしているのだと考えてもらいたい。
もう一度、法華経、釈迦、多宝、十方の諸仏菩薩、諸天善神などに〝信〟を入れて、お題目を唱えたいものだ。
(論説委員・高野誠鮮)

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