論説

2024年5月20日号

立正世界平和の新文明時代を目指そう

■第2次世界大戦終戦80年
平成16年(2004)に初版が発行された稲盛和夫氏の『生き方』が、20年経った今もなお人気が衰えず、150万部を突破したという。
私は書棚からこの本を取り出し、20年前に引いた赤線の部分を再び読んで、改めて学ぶことがあった。それは稲盛氏が日本近代史の40年ごとの節目を取り上げて、将来の日本のあり方を問うことであった。
今年は第2次世界大戦の終戦から数え80年となる。明治維新から近代国家として発展を続け、富国強兵の国是の基に世界の列強の仲間入りして軍事大国となった日本は、昭和20年(1945)第2次世界大戦で敗戦し、国が破れる憂き目を初めて体験した。再び戦争はしまいと誓い、世の中で初めて使われ、一瞬のうちに多くの人びとの命を奪った原子爆弾などこの世にあってはならないと、核兵器廃絶を訴えて80年目となった。
その敗戦の焦土から立ち上がって、日本は平和日本の建設に向かって精進し、経済大国として発展してきた80年ともなった。
■新しい戦前の時代
今、ロシア・ウクライナ戦争が続き、イスラエル・ハマスの戦争も始まり、中東も波立っている。平和立国の日本も浮足立ってきていて、不安な世界情勢となってきた。
各国が軍事力を増強し、新兵器の開発に力を注いでいる。この状況が「新しい戦前」と表現されている。
日本も例外ではない。軍備の拡大のために膨大な予算が組まれ、戦闘機などの開発に乗り出して、武器の輸出も行われるという。まさに平和日本の箍がゆるんできたようで心配でならない。
第1次世界大戦後、軍拡競争が世界で始まっている時、列強による「ワシントン会議」が開かれた。その会議に対して、当時東洋経済新報の取締役だった石橋湛山先生は、「太平洋問題研究会」を設立して、軍備の全廃を各国に提言した。今や世界の危機的状況下にあって、勇気を持って平和のために世界をリードしていく政治家が欲しい。
■宗教心希薄化の時代
第2次世界大戦後、日本は経済大国としての発展を目指し、もっぱら経済的繁栄に力を入れてきた影響が、今日顕著になってきている。それが宗教心希薄化の時代となってきている。
寺の立場から考えると、寺離れ、墓離れ、葬式離れの3離れが目立っているといわれる。
これは私たち宗教者の責任もあるが、経済偏重の時代の影響は否めない。物心両面の豊かさこそ人類の幸せの条件であることを説いていかなければならない。
さらに近年独身者が多くなり、親から子へのいのちの継承ができていない。そのために家が断絶してご先祖からのお墓やご先祖からの慧命(仏さまの教えのいのち)の相続が途絶えてしまって、無縁のお墓が目立ってきている。まさに今は、宗教者の出番だ。心豊かに生きてこそ、人生の生きがいが生まれ、この世にいのちをいただいてきた悦びが生まれる。
■コロナ後の文明新時代
パンデミックの後には必ず新時代が開かれるといわれてきた。どんな時代となるか。それは私たち現代人の目ざす目標に関わってくる。時代の流れにまかせるのではない。私たちの願いが叶えられ、私たちの生きる社会が生きがいのある社会となるように、私たちの願いに向かって、精進を重ねていくことだ。
私たちには、時代を超えた大導師がおられる。立正安国・世界平和を提唱してくださった日蓮聖人だ。
お題目を一心に唱えて、立正世界平和に向かって生きよう。
(論説委員・功刀貞如)

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2024年5月1日号

老いに寄り添う・老いに向き合う

世界有数の長寿国日本。長寿になればなるほど認知症の割合も高くなり、2025年には日本の認知症患者は700万人になると推定されている。認知症予防財団(1990年設立)では、無料の電話相談「認知症110番」や機関紙「新時代」の発刊、シンポジウムなどの啓発事業、調査・研究事業など認知症に対応する活動を通じ、豊かで明るい希望に満ちた長寿社会の実現を目指している。財団では、認知症に関するさまざまな提言を行い、認知症予防についてはバランス良い食事と適度な運動の推進や、好奇心を持ち、いつも若々しくおしゃれを忘れずに明るい気持ちで生活しようと呼びかけている。興味深いのは患者に対する家族の接し方。理屈より気持ちを通わせること、つまり「説得より納得」が重要と指摘している。またどのような状態でも相手のプライドやプライバシーを大切にと「人格尊重」を強調し、些細なことで怒らず相手の気持ちに合わせた「心のゆとり」も大事という。介護の仕方については、相手にできるだけ多くを語らせ、聞き手は応対しながら微笑みうなずく「コミュニケーション」が信頼を築くという。たとえどんな妄想でも、耳を傾け、相手の話にあわせてうなずくことが「精神安定」に繋がるとか。この場合、言葉を「聞く」のではなく、心の叫びを「聴く」ことがポイントとなる。認知症特有の問題的行動には、叱らず受け止めることが「問題行動防止」につながると教える。認知症はあくまで身体的病気。「自尊心尊重」が本人に一番の安らぎを与えるとアドバイスしている。
現在日蓮宗が推進している合言葉は「いのちに合掌」だ。人間は誰しも老いる。互いに日々老いていく状態を認めあい、どのような状態になっても、互いに寄り添い受け止めあい大事にしあうことが「いのちに合掌」の実践だ。
私たちは、生まれた時から死に向かって生きている。「生きていることは、同時に死につつあること」でもある。生まれた瞬間から、老い、時には病になりやがて死んでいく。生老病死のプロセスで私たちは自分の「いのち」を生きている。かつて「オイルショック」をもじって「老いるショック」という言葉が流行ったが「老いること」は自然の姿なのだ。
私たちの「いのち」は、両親や先祖から頂いた「繋がっているいのち」だ。植物や動物のいのちを頂いてる「生かされているいのち」だ。また目に見えないところで仏祖三宝の守護のお陰で「護られているいのち」でもある。そして、死亡率100%の「限られたいのち」だ。しかし魂は永遠に生きつづける「永遠のいのち」でもある。それぞれの「いのち」は、その時々私たちにとってかけがえのない「いのち」なのだ。
日蓮聖人は「命と申す物は一身第一の珍宝なり。一日なりともこれをのぶるならば千万両の金にもすぎたり」(命というものは、人にとって第1の宝であり、1日でもこれを延ばすならば千万両の金にも過ぎる価値のあるもの。『可延定業御書』)とお説きになっている。また「命と申す財にすぎて候財は候はず」(命という財宝に過ぎた財宝はない。『事理供養御書』)と、いのちを大切にすることをお説きになる。
いのちに合掌における「いのち」とは人間はもとより動物や植物、無機物も含めた森羅万象すべての「いのち」を対象にしている。地球上の生きとし生けるすべての存在が、互いに何らかの「縁」で結ばれ繋がって存在していると考えるからだ。「いのちに合掌」を合言葉に僧侶檀信徒一体となって共に精進していこう。 (論説委員・奥田正叡)

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2024年4月20日号

能登半島地震の教訓

今年の元日の夕方に龍の頭の形をした地元の能登半島が揺れ、大地が裂け、240人以上の死者が出た。ゴゴゴという轟音と共に、ミシミシ、バキッバキッという柱が裂ける音と、立っていられない揺れが続き、収まるどころか、通常の地震ではない異様さと、急激に強くなった南北方向の振動に、無意識にお題目を唱えた。大きな揺れの中で、右の耳に本堂から大きな声でハッキリと「備えよ!」と言われた。もっと前に教えて下さいと心によぎった瞬間、脳裏には今回の能登半島地震ではなく、これからもあるであろう度重なる大地震のことだと悟らされた。大きな揺れの真っ只中で、このような不思議な体験もした。
揺れが落ち着き、真っ先に本堂にいくと、位牌堂の位牌の多くが落下により破損。当山の開山である鍋冠り日親上人の愛弟子であった日賢上人像は倒伏し、両腕が折れてしまっていた。本堂を支える7寸の柱は傾き上下に亀裂が入り、梁の接合部分が崩壊した。また棟瓦、天蓋、瓔珞、木蓮華は落下し、粉々に破損。須弥壇の日朗菩薩像と日像菩薩像、安立行菩薩像だけが無傷のまま安置され、守護神の七面大天女像、大黒天神像、三十番神像、鬼子母神像は難を免れ、県内最古の開運日蓮聖人坐像は御厨の扉だけが開いていた。境内地の春日灯籠や大きな墓石の数多くは、倒伏していた。
当日の午前中、新年祝祷会を奉行し、「三災七難が日本を襲う」という法話をしていたところに、今回の震災に見舞われた。能登半島では全壊、半壊した寺院も多いが、宗門の現職の住職は誰1人として亡くなる者はいなかった。
日蓮聖人のご存命中、鎌倉時代の大地震については、当時幕府が編纂した歴史書の『吾妻鏡』に次のように書かれる。「正嘉元年(1257)戌の刻、大地震、音あり。神社仏閣一宇として全き事無し、山岳頽崩し、人屋顛倒す。築地皆ことごとく破損し、所〃の地裂け、水湧き出る。中下馬橋の辺り、地裂け破れ、その中より火炎燃え出る」と神社仏閣がほぼ全壊したと記されている。
近年の阪神淡路、東北、熊本と続く震災にあって、日蓮聖人の『立正安国論』やご遺文の中に、こうした災害の意味や原因を見出してみると、『災難対治鈔』には、「金光明経に云く、〝もし人ありてその国土において、この経ありといえども、いまだかつて流布せず。捨離の心を生じて聴聞せんことを楽わず、また供養し、尊重し、讃歎せず。四部の衆、持経の人を見て、また尊重し、乃至、供養すること能ず。遂に我等及び余の眷属、無量の諸天をして、この甚深の妙法を聞くことを得ず、甘露の味に背き、正法の流を失い、威光及び勢力あることなからしむ。悪趣を増長し、人天を損減し、生死の河に堕ちて、涅槃の路に乖かん。世尊、我等四王並に諸の眷属及び薬叉等、かくのごとき事を見て、その国土を捨てて擁護の心なけん。ただ我等のみこの王を捨棄するにあらず。必ず無量の国土を守護する諸大善神あらんも、皆悉く捨去せん。すでに捨離し已りなば、その国まさに種種の災禍あつて国位を喪失すべし~略~〟」と書かれている。
次々に巻き起こる国難ともいえる災難には、正法を立てて、立正安国の精神を守り、法華経の種をいただいた私たち1人ひとりが、そのお姿は見えないが、久遠実成の釈尊と日蓮聖人が眼前に生きておられるという自覚と、子息としての立場に立って、その思想哲学、行動理念を改めなければ、「前代未聞の大闘諍一閻浮提に起るべし」が現実のものになるかもしれない。今回の地震の体験で、こうした信念を強くさせていただいた。(論説委員・高野誠鮮)

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新年のご挨拶。

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    中尾堯著
    日蓮宗新聞社
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  • 日蓮聖人―その生涯と教え―

    日蓮宗新聞社編
    日蓮宗新聞社
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