論説

2023年9月10日号

お寺に行こう

コロナが流行する前にご縁があり、プロ野球ヤクルトスワローズの主砲・村上宗隆選手の父親と話をする機会がありました。村上選手がまだプロ入り2、3年目くらいの時です。大物の片鱗こそあったものの、後に三冠王やWBC日本代表の4番を務める選手になるとは、夢にも思いませんでした。会話の中で「宗隆」という名前は、お寺でつけてもらったのだと知りました。新聞などで同じ名前のお寺が参拝者で賑わっていると話題になりましたが、お寺と縁が深い人のようです。
古来、お寺にはいろいろな役割があり、儀式墓参だけでなく、さまざまな目的で人が訪れてきました。お寺で命名すれば村上選手のようになれるとはいいません。ですがいつでも知りたい情報を気軽に入手できる現代、ふと行き詰まった時はお寺に参拝し、心静かに仏さまに合掌してみてはいかがでしょう。新しい気づきが必ずあるはずです。さあ、お寺に行きましょう。
(山形県布教師会長・外塚顕龍)

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2023年9月1日号

住世尊前 合掌供養

7月から9月の3ヵ月間、僧侶は忙しい時期である。7月から8月は新旧暦の盂蘭盆会や施餓鬼会、9月は彼岸会。棚経中に電車に乗ると、扇子で煽ぎながら軽く会釈する同門に会い、「貴方も。よし、私も頑張るぞ」と力をもらった。近年では、そんな出会いも無沙汰になった。
棚経では、各家庭にお邪魔する。盂蘭盆の飾りつけにはそれぞれの特徴があり、「ああ、今年もこうして供養しているのか」と感心しきりである。そもそも「供養」とはどのような意味なのか、私自身、秋の彼岸会に向けおさらいの必要を感じる。今回は、「供養」を具体的に見てみよう。
供養の原語はサンスクリット語のpūjeti「尊敬する、もてなす」の意味から「尊敬の念によりもてなすこと」とされ、「供給奉養」(目上の人へ尊敬の念を以て仕え、養う)の略語として定着した。もう少し字義を考えてみよう。漢和辞典に依れば、「供」の字は、にんべんに共(とも)、共の上部はある物、下部は両腕を揃えて持つ形を表している。両手で捧げ持つ姿、脚付きのお膳を持つ姿と思えばわかり易い。尊敬する人や賓客をもてなす意味と理解できる。
「養」はヒツジへん。古代中国で最高の家畜が羊であった。羊の肉は美味しく、よい姿の代表で「美」や「善」などの語も生まれた。毛は糸に、皮も生活品へ加工された。最高の肉を食する行為が「養」であるから、美味しい食物から気力や体力を付ける、育てる意味が生じた。
「供養」の字義は、「大切な尊敬する人に最高の食事などでもてなし、その人の気力や体力を充実していただく行為」と理解でき、まさに「供給奉養」の意味である。
仏教では、前述のpūjetiから派生したpūja(プージャ)がもっぱら供養として理解される語である。その出典を探ると、修行者シッダールタが苦行を離れて尼連禅河で沐浴中に、バラモン村の娘スジャーターがミルク粥の供養をする(北伝はナンダーとナンダパラーの2人の娘たち)シーンが有名である。しかし、このシッダールタは出家こそしているが成道を達成していない。仏陀(覚者)に最初の供養を行ったのは、タプッサとバッリカという2人の商人であった。この供養の後、2人は仏と法の二宝に帰依して最初の優婆塞(在家の信者)になった。
さて、法華経はどうだろう。「妙法蓮華経」全8巻中には、193回も「供養」の語が表れる。飲食や香華を供養する利供養、仏を讃歎し恭敬する敬供養、仏説を実践する行(法)供養などが説かれるが、特に有名なのは十種供養である。巻4「法師品」第10に「華・香・瓔珞・抹香・塗香・焼香・繒蓋(仏堂を荘厳する絹の天蓋)・幢幡(仏堂を飾る旗)・衣服・伎楽」と、仏を恭敬し讃歎し礼拝するための品々を示している。これらの品々を用いて仏への供養だけではなく、経巻も供養せよと説く。釈尊の教えを記す経巻にも、尊敬の念を向け供養する大切さを、法(教え)の価値の重要性を、改めて認識せよと説く。その態度が標題の「住世尊前 合掌供養」(世尊のみまえに住して、合掌し供養する)である。妙法蓮華経巻5の「従地涌出品」第15で地涌の菩薩が出でて世尊に礼拝した様子がある。
わたくしたちが、仏や経巻に見えるとき、自らの心を示す。それが尊敬や崇敬の心である。その心を具体的に表す行為が「供養」である。この原点に立ち返って地涌の菩薩のように「合掌して供養する」大切さを問い直そう。
(論説委員・池上要靖)

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2023年8月20日号

汽笛一声島原を

「汽笛一声新橋を」と長い歌詞の「鉄道唱歌」を明治生まれの祖母はよく唄ってくれました。
上京してJRで新橋から品川方面へ向かうときは、流れる風景に合わせてこの明治の歌を口ずさんでいます。2番には「右は高輪泉岳寺 四十七士の墓どころ 雪は消えても消え残る 名は千載の後までも」。次に「窓より近く品川の 台場も見えて波白く 海のあなたにうすがすむ 山は上総か房州か」と続きます。品川から高輪にかけて江戸開闢の折に加藤清正公は屋敷を構え、池上本門寺の境内・伽藍の整備に尽力しました。江戸の玄関口を押さえた清正公の先見性はさすがです。日蓮聖人にゆかりのある房州や富士山を望めるこの沿線は日蓮宗にとっても大事な場所です。通過のたびにこの歌と歴史に胸を熱くします。
久々に上京したとき、この沿線の大規模な開発と建築ラッシュにはびっくりしました。高輪界隈には延々と大型ビルが建設されているではありませんか。人口減少による社会の縮小が懸念される将来、これだけのコストをかけての事業が必要なのかと疑問に思うのは私だけでしょうか。
地方では過疎が進むばかりです。あまりにも対照的な都市部の開発が不安になります。切り捨てられていく地方の町や村はどうしたらよいのでしょう。そこにあるお寺もどうしたらよいのでしょうか。日蓮聖人の「花は根にかへり、真味は土にとどまる」(『報恩抄』)にあるように、私たちが生まれ育った郷土の大地に根を張ることによって国土全体に花を咲かせることができると思います。聖人の法華経観は国土安穏、立正安国の実現を目指されたことにあるはずです。だからこそ京都に上らず地方の関東で最期まで伝道されたのでしょう。現代のように一部の国土に豪華なあだ花を咲かせても、いつかは全体が枯れ果ててしまうでしょう。正しく『立正安国論』の提言通りです。
さて明るい話題に転じます。先月の7月23日は熊本本妙寺で413回目の「頓写会」が営まれました。清正公の1周忌に朝鮮出身の高麗日遙上人が追善のために法華経一部を書写し納めたことに因み、翌年の3回忌には寺内全ての僧侶が一晩で書き上げ(頓写して)奉納したことから始まりました。
拙寺・長崎県島原市護國寺は高麗遙師の開山でもあり、年間の写経を納めるために檀信徒と参拝を続けています。近年まで夜を徹して賑わっていましたが、年々衰退してきました。加え熊本地震、コロナと夜店もなくなり、お参りも激減し、清正公のご威光もどこへと残念でなりませんでした。しかし、今年は8年ぶりに夜店が並び活気を取り戻したのです。子どもたちが嬉々として走り回り、同伴の大人たちで賑わいました。清正公もさぞお喜びになったことでしょう。歴史と伝統、出店と子どもの威力に改めて感じ入った頓写会でした。
拙寺では江戸時代から島原城で上演されている「薪能」の事務局を引き受け、島原城天守閣前で毎秋開催して、今年で41回になります。プロの能楽師に負けない地元の子どもたちの狂言の声が天守閣にこだまし、その声が魔を払います。頓写会には遙かに及びませんが、荒廃していく地方に残る歴史と文化を根っ子として、将来の花が咲いてくれればと微力を尽くしています。子どもの声を汽笛として「汽笛一声島原を」と明るいリズムで未来に向かいます。今年は10月7日の観世流の「船弁慶」です。幽玄の舞台はどこにも負けません。皆さまもお出かけになりませんか。なぜか入場無料です。   (論説委員・岩永泰賢)

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新年のご挨拶。

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    中尾堯著
    日蓮宗新聞社
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  • 日蓮聖人―その生涯と教え―

    日蓮宗新聞社編
    日蓮宗新聞社
    定価 826円+税

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