オピニオン

2025年2月20日

もうひとつの戦後80年―日系人強制収容所―

暦の上では春とはいえ、自坊のある関東平野は寒く乾燥する日が続く。強風が吹き荒れることもある。このように乾燥して風の強い日は、アメリカで初めて訪ねた日系人の強制収容所のことを思い出す。今から11年前の2014年4月、ロサンゼルスで国際布教師の研修をしていた時のことである。
カリフォルニア州の内陸部、ロサンゼルスから車で3時間半ほどのデス・バレー国立公園からほど近いところに、「マンザナー強制収容所跡」(マンザナー国定史跡)がある。第2次世界大戦中に日系人が強制収容された場所の1つである。そこでは毎年4月の終わりに慰霊の式典が営まれ、ロサンゼルスの仏教連合から毎年数名の僧侶が出仕をする。研修中だった私もその1人として参加した。
まず現地まで車を運転して行かねばならない。まだアメリカの運転には不慣れな頃である。「デス・バレー(死の谷)」という名から想像できるように、現地は過酷な砂漠地帯にある。途中で車が故障したらどうしたら良いのか、そんな心配をしながら向かった。ゴーストタウンと化した誰も住まない町や、ごろごろとした岩が転がる荒れ果てた地を横目に、ひたすら収容所跡の近くの小さな町を目指し、式典の前日、まだ明るい時間に何とか到着できた。
日中は太陽に容赦なく照らされ、夜は凍てつく寒さ、と聞いていたが、私が訪ねた年は、どうやら記録的に穏やかな天気に恵まれたようだった。乾燥して風は強かったものの、さしたる大変さを感じずに過ごすことができた。普段であれば収容所跡は人里離れた場所であるが、当日は車が続々と到着した。かつて収容されていた人たち、その家族、強制収容について学ぶ人びと、ボランティア、式典に関わる宗教者などだった。慰霊碑の前で読経を捧げ、参列者が焼香をした。慰霊碑は想像よりもはるかに大きく、ここに日系人が収容されていたことを決然と示しているようだった。後ろにはシエラネバダの山が盾のようにひかえていた。
このように過酷な辺境の地に日系人のための強制収容所が作られたことを思うと、日系人に対する当時の米国政府の意識がどのようなものであったか、容易に感じ取ることができた。日本人のルーツを持つというだけで、またアメリカ西海岸の対象地域に住んでいるというだけで収容された人びとはどのように思い、その場所での時間を過ごしたのだろうか。
跡地に当時の建物は残っていないが、広大な敷地に建物の基礎や運動場跡が保存されており、当時の様子を想像することができた。また博物館があり、写真や所持品などさまざまな展示のほかに、当日は館内において実際に強制収容を経験した日系人が自らの体験を話し、質問に答えてくれていた。これは大変貴重なことだった。
日系人の強制収容については、1988年8月、ロナルド・レーガン大統領により謝罪と補償の署名が行われた。さまざまな議論はここで大きな節目を迎えたことになるが、収容された人びとやその子孫の感情はどうなのか。話を聞くと、まだ終わったこととは思えず複雑な感情を持つ人もいるようであった。
戦後80年を迎える今年は、戦争について、平和について、何かと考える機会を頂戴する。その時、海の向こうで日本人を祖先に持つという理由だけで平穏な生活を奪われた人びとのことにも目を向けてもらえたらと願う。
(論説委員・村上慧香)

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