2026年3月1日
通力と人格
旧ソビエト連邦時代に、民放の番組制作でモスクワ郊外にある施設を取材収録したことがある。「ソ連邦ジューナ研究所」という研究施設である。超能力者といわれていた本名エヴゲニア・ダヴィタシュヴィリが管理する施設であった。当時、彼女は「ブレジネフ書記長の心臓病を治したのは私だ」と豪語していた。ソ連はこうした能力の軍事利用に力を注いでいた時期で、私たち日本のテレビ局スタッフに同行していたソ連側の女性コーディネーターは、KGB(ソ連国家保安委員会)の職員でもあった。ジューナは「私は遠隔で自在に心臓を操れる」というので室内にあった実験動物のウサギの心臓を手を触れずに目の前で止めてしまい、心音がないことを確認させ、再び動かして見せてくれた。こうした能力の軍事政治的利用を事前に聴いていたので「これまで何人の西側の要人の心臓を止めたのか?」との質問をぶつけた。その時の彼女の反応は魔女がにらむようで、ぞっとした体験がある。こうした能力者をトレーニングして育て上げるというプログラムをソ連は、国を挙げて勧めていたのである。彼らは英語で表現するとExtra Sensor(異能力者)といわれていた。当時ソ連では、こうした能力者たちが至る所で監視の目を光らせていた。KGBの職員からも「空港などの入出国施設にいるから」と知らされていたので、帰国の際にある実験をしてみたところ、見事に引っかかってしまい、X線も通していないのに、荷物の中身を当てられてしまったことがある。
一方、ある国のある部隊が軍事利用として特化されており、素質のありそうな人材を集め、研究トレーニングと実験を今も存続して行っているという。遠隔透視のリモートビューイングや物質化現象、洗脳行為や他人の心を操る遠隔操作などのための人材育成や実験研究が密かに行われている。日本に帰化したという元部隊員2人と数年前に都内で会って食事をしたとき、多くの事柄や調査活動の内容を彼らから聞いたこともある。
仏教ではこのような力を通力、神通力と表現しているが、我が国では現代科学の文脈からはほど遠く、平均的な大学でもこうした超心理学の事実も教えなければ研究の対象ですらない。むしろ学問的禁忌すら感じられる。同盟国の米国ですら、表向きには「超能力は実用的ではなく成果はなく使い物にならない」と公言していたのだが、実際にはCIA(米国中央情報局)がインゴ・スワンなどの能力者を米国内から集めリモートビューイングなどの探査活動をしていたことが機密解除された公文書から明らかにされている。日本国内にも、手品やトリックではなく、人の手では曲げられない太いステンレスボルトをぐにゃりと曲げる能力を持つ者を個人的にも数人知っているが、そうした能力と人格は、全く別物である。
日蓮聖人は「通力に依るべからず」と「まず通力ある者を信ぜば、外道・天魔を信ずべき歟。或外道は大海を吸干し、或外道は恒河を十二年まで耳に湛たり。第六天の魔王は三十二相を具足して仏身を現ず」(『題目弥陀名号勝劣事』)と、神通力があるからといって正しいとは限らないと述べられる。現象は起こせるが人格的には問題があったり、社会性がなかったりする場合もある。法華経という正法によるべきで、毎回日蓮聖人の「行者は必ず不実なりとも、智慧は愚かなりとも、身は不浄なりとも、戒徳は備えずとも南無妙法蓮華経と申さば必ず守護したもうべし」(『祈祷抄』)の言葉に救われている。(論説委員・高野誠鮮)




















