2026年2月1日
「いのち」を守る働きかけを
新生児誕生の時、日本では出産した母を労い「よく頑張ったね」と伝え、英語圏では新生児に対し「ウエルカム!」と祝福の言葉をかけるという。本宗にあっては、出産前のご祈祷も小さき命と命を預かる母胎に対し、母子共の身体健全、発育成弁を祈念し「若有懐妊者 安楽産福子」と唱える。これらは単なる通過儀礼としての祝儀ではなく、「いのち」をことほぎ、母子や家族が社会との間に新たな関係を作る起点ともいえる。
筆者の住む埼玉県東松山市では平成28年9月から市内在住の生後4ヵ月までの子どもがいる家庭に、地域の主任児童委員が訪問するウエルカムベビー訪問を実施している。
主任児童委員とは厚生労働大臣から委嘱された民生委員・児童委員のなかにあって特に子育て支援活動の情報や地域とのつながりを深めるため、身近な相談相手として子育ての応援をする存在である。
ウエルカムベビー訪問では各戸を往訪し親子と面談、祝意を伝えプレゼントを手渡し、悩みごとや困りごとの確認、さらには相談機関や窓口の案内も口頭と文面で伝え、児童虐待防止活動につなげる取り組みを行っている。人と人とをつなげる尊い活動ではあるが、多くの時間と労力を伴う地道な取り組みといえる。
令和7年8月13日付の『埼玉新聞』では「産後ケア」を取り上げた。令和3年4月に改正母子保健法が施行され、産後ケア事業の実施が市町村の努力義務となり導入が進み始めた。産後ケアは自宅に助産師らが訪問する「アウトリーチ型」、医療機関などを利用する「通所型」「宿泊型」の3種類がある。
東松山市の産後ケア施設レアオハナは令和4年に起業。近隣5市町村から委託を受けている。1歳未満の子を育てる母親が体を休めたり、悩みを相談したりできる。助産師、看護師、保健師がスタッフにいて利用者である母子に寄り添い伴走する。
産後ケアに詳しい越谷市立病院産婦人科の西岡暢子医師は、産後の母親は悩みを打ち明けられずに抱え込み、自身を攻撃するケースが一定数ある。近所付き合いが希薄なことや恥ずかしさから、周囲に助けを求められない傾向にあると指摘する。子ども家庭庁の報告を見ると令和5年度の産後ケア施設の利用率は、全国の出生件数の1割強(15・8%)にとどまっており認知・浸透は十分とはいえない。必要な人に産後ケアが届いていない現状が懸念される。
「いのちを支える自殺対策推進センター」の調査によると令和4~6年に自殺した妊産婦は162人に上る。特に出産後の女性は睡眠不足や育児への不安から心身のバランスを崩しやすい。令和7年1月、熊谷市で産後うつ状態の母親が生後5ヵ月の長女を殺害した事件があった。殺人の罪に問われた母親には懲役3年の実刑判決が言い渡された。この裁判では母親が産前産後の育児不安から不眠症やうつ病を発症し、周りとのコミュニケーションがうまく取れなかったことが浮き彫りになった。
産後うつに対する認知度は平成22年ごろから上がってきたものの、精神面のケア方法を確立する過渡期だといわれている。母親の悩みを早期に発見できる環境整備や人を頼ることを良しとする環境づくりが必要と警鐘を鳴らす専門家もいる。
家族は縦の関係、同僚や友人は横の関係、利害関係が薄く異なる視点や価値観を提供する存在を斜めの関係という。寺院やお寺に係る人が斜めの関係から「いのち」を紡ぐことはできまいか。人と人とのつながりの量を増やすハタラキも「いのちに合掌 日蓮宗」のスガタである。 (論説委員・村井惇匡)




















