2024年12月1日
人口減少社会と仏法
少子高齢化と人口減少は、日本における喫緊の課題である。
少子高齢化と人口の減少は社会全体にさまざまな影響を及ぼす。労働力の減少は経済の停滞につながり、社会保障を支えている働き盛りの人口の減少は、医療や年金などの社会保障制度の根幹を揺るがすことになる。
長寿高齢化と人口減少は、デメリットばかりではない。ごみ問題や大気汚染など環境負荷の低減、住宅・土地問題や交通渋滞など生活環境の改善には利するところがあり、一人当たりの社会資本の増加、少数を対象とした高質の教育の実現や受験戦争の緩和など、メリットもある。
出生率の増減には、さまざまな社会的な要因がかかわっている。終戦直後にベビーブームで急激に人口が増え、彼らが成人したころには、第2次ベビーブームが起こったなどが一例である。
近年の出生率低下や人口減少はさまざまな要因の複合的結果であると指摘されている。学費や養育費の増加、長時間労働、高学歴化、晩婚化、未婚化、雇用形態の流動化、時間外労働、低賃金、ひとり親世帯・高齢者・障がい者支援の不足による出産の阻害、離婚率の増加などである。
それに対して、育児休暇制度の拡充、出産後の再就職支援、保育施設の拡充、結婚の支援、婚姻制度の見直し、出産・育児を支援する制度の拡充、高齢出産・不妊治療医療技術の開発支援などの対策が講じられているが、芳しい成果が得られていないのが現状である。
私が本稿で考えたいのは、人口の増減と仏法との関連である。人間がこの世に生を受け、成長して活動し、年老いて世を去るのと同じように、この世界や宇宙全体も、生まれて一定の期間存在した後、衰退して無に帰するという、いわゆる成・住・壊・空の四劫を繰り返し循環しているというのが、仏教的世界観である。
釈尊が出現したのは、住劫の第9番目で、人の寿命が8万4千歳から次第に減じて100歳になった時であったとされる。以来、100歳から100年ごとに1歳を減じて10歳になるまでの1万年の中間に、仏の在世50年と、入滅後の正法千年と、像法千年と、末法万年とがあり、現在は末法万年の中を進行中であるとされる。ということは、四劫の中で現在は寿命が短縮する時代であるということになるが、平均寿命が延びている現状と必ずしも一致しない。
地球を含む太陽系は約50億年後には太陽の爆発とともに消滅し、人類も地球と共に絶滅するという予測がある。人類は地球と運命を共にして、現在住劫の只中にあるが、遠い未来とはいえ、いずれは壊劫を経て空に至るであろうことは、あり得ることである。しかし、現今の人口減少が壊劫に至る入口の現象ととらえることには無理がある。
一方、日蓮聖人は「国に正法を誹謗する声があると人民はその数を減らす」という伝教大師の言葉を引用している。国に謗法が蔓延すると、人口は減少するというのである。現今の状況が謗法と関連する可能性を深刻に考慮しなければならない。
若者が減り、人口が減少することは、法華経を信受する者の数が減るということであり、信仰を相続する者の数が減少するという由々しい事態につながる。地涌の菩薩たちが、絶えることがなく地から涌き出てくることを願う。お題目を受け継ぎ、次世代にバトンタッチする後継者の子孫が絶えることがないことを心から願う。人口対策は、現代に生きる私たちに課せられた大きな課題であると同時に、本宗にとっての課題でもある。
(論説委員・柴田寛彦)




















