オピニオン

2024年4月1日

「いのちに合掌」し共生社会の実現を

日本には16人に1人、総人口の6%が心身の機能に障害があるといわれる。
また障害には個人(医学)モデルと社会モデルがある。個人モデルでは「障害とは個人にあるもの」と捉え、個人の努力や工夫、治療によって解決すべきものと考える。
一方、社会モデルでは「障害は個人と社会(モノ、環境、人的環境など)の間にあるもの」と捉え、社会的障壁は社会側の努力や工夫、改革によって解決すべきものと考える。例えば、車いす利用者は歩行に不自由がある「本人の身体」の障害であるが、通路に階段があれば段差が障害となる。スロープがあれば車いすでも通行できる。つまり障害とは個人の心身機能の障害と社会的障壁の相互作用によって作り出されているといえる。主な社会的障壁は4つある。施設や設備など物理的な障壁、ルールや条件など制度的な障壁、文化・情報面の障壁、障害などに対する無知・偏見・無関心は意識の障壁という。
事例として視覚障害者誘導ブロック、通称・点字ブロックを取り上げる。道路や駅などで見かける黄色い点字ブロックは2種類ある。移動経路や進行方向を示す線状のブロックは誘導ブロックと呼ばれる。点状の警告ブロックは転落や衝突といった危険の可能性を示している。
令和5年2月、群馬県JR新前橋駅で視覚障害のある71歳男性が階段から転落する事故があった。点字ブロックを白杖で確かめながら歩行していた男性が、線状ブロックの上に居た集団を避け迂回する形で歩みを進めたところ警告ブロックに気づけず転落。
白杖を手に歩行する視覚障害者にとって点字ブロックのない通路は、あたかも欄干や手すりのない橋を歩くようなものとは被害男性のことばである。
JR東日本は、アナウンスでの「黄色い点字ブロック」という表現の徹底や点字ブロック上での立ち止まりや荷物を置くなど歩行の妨げとなる行為への注意喚起をはかっていくとのこと。障害がある人も周囲の人も、共に在る空間において共通の理解と認識、そして補助や協力の輪が広がれば、社会にある意識の障壁を少しずつ下げることにつながる。
あらためて人と社会の在り方を問う時、倫理学者の和辻哲郎のことばを想起する。和辻は『倫理学』の中で、人間はもと「じんかん」と読んだと記す。文字どおり人と人との間、世の中を意味し、やがてそれが世の中に生きる1人ひとりをも指すようになった。
さらに和辻は、人間とは「世の中」であるとともに、その世の中における「人」であると指摘する。人間とは孤立した自己ではなく、人と人との間に居場所のある存在だとつづる。共生社会、心のバリアフリー、ユニバーサルデザイン社会の実現を目指す今日、和辻のことばは社会とそこに生きる人の関係性を示唆している。
私事にわたるが筆者は緑内障により視野は30%以下の視覚障害者である。今までできていたことが加速的に不自由となったが不幸ではない。むしろ新しい「特性」を頂いたように感じている。
身体・精神・知的障害あるいは高齢者や認知症の人は、その人の特性であって、全人格や存在を否定されるものではない。自他が特性を隠すことなく世の中と交わり、居場所のある共同体を共生社会というのではあるまいか。全ての人が相互の人格を尊重しながら生きる。「いのちに合掌」とは「あなたは尊い」ということである。(論説委員・村井惇匡)

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