オピニオン

2023年12月1日

本阿弥家の法華信仰

戦国時代の終結にあたり荒廃した京都の町を復興させたのは、「皆法華」と呼ばれた法華町衆でした。茶屋家、後藤家、角倉家、狩野家など上層町衆があげられますが、江戸時代初期には本阿弥光悦(1558~1637)がその牽引者でした。光悦は刀剣の研磨や鑑定を家職としながら、陶芸や蒔絵など多くの芸術品を残しました。令和6年1月16日~3月10日まで特別展「本阿弥光悦の大宇宙」(東京国立博物館)が開催されます。光悦を支え、光悦と共に生きた本阿弥家の人たちはどのような生き方をしたのでしょうか。
光悦の父、光二は片岡家から婿養子に入りました。天正年間、本阿弥家の菩提寺本法寺が現在の小川通に移転した際、光二は移転工事の総監督を務めました。本堂落慶には三十番神を寄進し、本法寺中興・功徳院日通上人から紺紙金泥法華十界曼荼羅本尊を賜りました。「紺紙金泥本尊は尋常普通の信心にては得難きものなり」(光悦寺故前田日延上人談)とあり、光二の篤い信仰が理解できます。本阿弥一門では、菩提寺への奉仕が子孫に継承されていきました。
光悦の母、妙秀は信仰が篤く一門の支柱的存在でした。「少しにてもよき事あれば殊外悦びほめけり。人の親の瞋恚をおこして子を折檻するを見ては浅ましき事と申されける」(『本阿弥行状記』)。妙秀は、親が自分の怒りにまかせて子どもを厳しく叱ることをいさめ、むしろ子どもの良い点を褒め讃え、子どもの心が萎縮しないように心がけるべきと教えました。現代の子育てにも通じる考え方です。減点主義ではなく加点主義こそ子育てのコツなのです。また「金銀を宝と好むべからず、一大事の兄弟中あしくなり、恥をさらすも、多くは金故なり」(『本阿弥行状記』)と金銭欲を戒めています。
光悦の嫡子は片岡家から来た光瑳です。光瑳は本阿弥家開職以来、拭い(刀身を青黒く着色する)の名人でした。「然るべき寺院を四カ所迄建立、一カ所は光瑳が才覚にて法華の鎮所を建立す、常照寺是なり」(『本阿弥行状記』)。父光悦の常照寺土地寄進に続いて、光瑳は堂宇を建立しました。親子の信仰が見事に寺院建立として結実したのです。光瑳の長男光甫(空中斎)は、祖父光悦から人格的感化を受け、特に書・茶の湯・作陶・彫刻などの諸芸能を伝授されました。『本阿弥行状記』を著し、鷹峰で過ごした晩年の光悦を伝えました。『本阿弥行状記』は一族への伝承のために記された内容ですが、光悦を知る貴重な資料です。
光瑳の二男本通院日允上人は、鷹峰檀林第2世知見院日暹上人(身延山第26世)の門下となり、弟子勝光院日耀上人、孫弟子了義院日達上人とともに「允・耀・達」3師として尊崇されました。「かくの如く弟子、法孫に耀師、達師の如き高僧を出したる允師の功運や大にして、又かく名高き日允上人を本阿弥家より出したるは実に同家の名誉なり」(妙顯寺故河合日辰上人談)。日允上人は、京都妙覺寺、本法寺、中山法華経寺の歴世となった碩学です。
光瑳の妻妙山は、「誕生日というのは出産のため母は大変な苦しみを受け、命も危ない目にあった日である。だから誕生日には生きものを放生して供養し、人に物を施し、仏祖三宝に供養すべき」と説きました。誕生日は母難日として感謝すべきことを教えたのです。大曼荼羅に香花飲食を供え、合掌して本尊を拝し、目ばたきもせず題目を唱え、合掌した手を口元によせ、両眼をふさぐように臨終を迎えたといいます。まさに法華経信仰者として理想的な臨終正念を迎えました。法華信仰の篤かった本阿弥家の人たちから、生きる智慧を学びたいものです。  (論説委員・奥田正叡)

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