2023年7月1日
いのちのつながりに寄り添う供養を
令和4年の出生数は、統計以来、初の80万人割れの79万9728人、一方、死亡数は158万2033人(ともに速報値)と統計以来最多となる。昨年度だけで日本人口の約78万人が減少、これは中都市の総人口に匹敵する数だ。まさに今、日本は高齢化社会から多死社会に向かっている。
核家族の時代が過ぎ、単身世帯3割、2人世帯3割、1人世帯とその予備軍が6割を占める日本社会。人口減少は社会的にも寺院にとっても大きな影響を及ぼしている。親戚や近所・知人関係などで営んできた葬儀や法事も、今後は夫婦や施主のみで行う傾向が強まる。弔い上げも短い年回忌で終了し、数霊合同で簡略に年回供養を営む。コロナ禍では、通夜のない1日葬、火葬のみの直葬が増え、枕経―通夜―葬儀―初七日という従来の葬儀内容が変化した。
そんな中、一昨年の秋、信徒のTさんが60代半ばで亡くなった。大腸がんの検診を受けてわずか1年後だった。コロナ禍だったため家族と親戚だけでの葬儀だった。通夜を済ませホテルに宿泊した翌朝、葬儀会場に行った。驚いたことに前夜まで真っ白だった棺に絵や文字が全面に描き込まれていた。遺族が徹夜で書き上げたものだった。棺の蓋には故人が好きだったヒマワリが描かれ「we love you thanks from your family」と書かれていた。棺の側面には「お母さん あなたは私たちの誇りです。ありがとうございました。またね」と子どもからは感謝の言葉、「またあそんでね」と孫からのメッセージ、「早すぎるやろー」と兄弟からは無念の言葉が綴られていた。黄色で描かれた大輪のヒマワリと色鮮やかな群青色の文字。最愛の家族を失った哀しみを乗り越えるかのように生き生きと表現されていた。喪主からは「心のこもった読経でした。私たち家族も心1つで供養することができました」と挨拶した。
「供養」とは「供給資養」の略語。供給は食べ物や飲み物をはじめ香りや花などを献げること、資養は仏神や祖霊に敬意や感謝を示すとともに自らの心を養うことの意味。家族愛で包まれた棺の前で、皆で法華経を読誦しお題目を唱え、故人を無事霊山浄土に送ることができた。葬儀や法事は、自身と亡き人との繋がりを示す縦糸と、久々に再会する親戚や知人という横糸との交差点。縦糸と横糸との繋がりに自分の命の存在を確認し、先祖からの命の繋がりを自覚するところにその意義が見い出せる。簡略化という社会の風潮に流されずに、葬儀や法事の意義を理解し、次世代に伝えて欲しいと願う。
最近、「弔い直し」の供養が話題となっている。コロナ禍で葬儀ができず、火葬のみ行ったことがきっかけだ。亡くなる前に見舞いに行けなかった人、臨終に立ち会えなかった家族が、納得できる看取りや葬儀ができず、故人の死を実感できないという。コロナ禍で最小限の直葬をしたものの、故人の死を受け入れられず、数年経っても「喪失の苦しみ」が残るという。
弔い直しの多くは「お骨葬」が行われる。従来の葬儀の形態にとらわれず、どれだけ遺族の哀しみに応えられるか。法要中に故人が好きだった音楽を流したり、焼香の代わりに献花、モニターで故人の思い出シーンを紹介したりと明るい雰囲気で法要が営まれる。また伝統的な年回忌の数にこだわらず自由に「偲ぶ会」で、弔い直しが行われている。
大事なのは、お題目の教えを基軸としつつ、依頼者の要望を十分に尊重し、従来の形式にこだわらない柔軟な対応を取ること。何より依頼者の哀しみに寄り添う心を持つことである。ライフスタイルが多様化した今、血縁のない繋がりの供養、友人同士やLGBTQ+カップルが入れる墓などが求められると聞く。「一切衆生皆成仏」を説き、「いのちに合掌」を推進する日蓮宗であればこそ、あらゆるニーズの供養に応えられると確信している。(論説委員・奥田正叡)