オピニオン

2022年12月1日

金原明善翁の没後100年を迎えて

「衆生病むが故に我もまた病む」『維摩経』。この維摩居士の言葉には他者の痛みに深く共感し、他者に寄り添い支え合って生きることが示されている。
3年にわたるコロナ禍は、私たちの生活や仕事、さらには心理面にもさまざまな影響をもたらした。いまこそ人びとの苦悩に共感し、寺院や僧侶が仏教の教え、実際の行動をもって社会や人びとの役に立つべき時だ。
日蓮宗の宗制(※決まりごと)には、「本宗の寺院、教会、結社並びに僧侶は、社会の要請に応え得る社会教化事業又は活動を行わなければならない」とあり、民生、児童、社会福祉、及び教誨、更生保護、補導に関するもの、青少年育成や救援活動など、多様な社会活動が謳われている。
これらの中で例えば更生保護事業に携わる保護司は、法務大臣から委嘱を受けた非常勤の国家公務員である。その活動は犯罪や非行をした人に対して更生を図るための約束ごとを守るように指導し、生活上の助言や就労の援助などを行ってその立ち直りを助けるものである。他者に寄り添う、抜苦与楽の慈悲の精神にも適う活動といえる。最近は再犯防止ばかりか、犯罪予防にも取り組み、安心・安全な社会を築くための一助を担っている。
筆者も長年保護司を務めてきたが、日蓮宗には僧侶で組織する「日蓮宗保護司会」があり、所属する全国の保護司はおよそ150人。同会に所属していない保護司や檀信徒の中にも相当数の保護司がいると思われる。
この更生保護事業に取り組んだ先駆者の1人に法華経の信徒、金原明善がいる。明善翁は、天保3年(1832)6月7日に現在の静岡県浜松市東区安間町の素封家に生まれ、その遠祖は日蓮聖人から直接に教化を受けた信徒、金原法橋であるという。明善翁は明治7年から私費を投じて天竜川の治水、さらに上流域の植林などで多大な貢献をなしたことで世に知られる。
郷土の産業開発としては天竜運輸、天竜木材、金原疏水財団など社会公共事業にも足跡を残し、さらに北海道開拓の支援、身延山の植林などと、事業の数は枚挙にいとまがない。
一方、私財を投じて出獄人保護事業や済生会事業にも力を注いだ。法務省のホームページの「更生保護の歴史」の項には、「近代的な更生保護思想の源流は、明治21年に金原明善、川村矯一郎を中心とした慈善篤志家の有志が、監獄教誨と免囚保護を目的として設立した静岡県出獄人保護会社に求められます」と記され、先駆者としての明善翁の名と写真が掲載されている。
今年は明善翁が大正12年(1923)1月14日に92歳の人生を終えて、没後100年にあたる。法号は天龍院殿明善日勲大居士である。
そこで、日蓮宗保護司会では明善翁の事績を顕彰すべく、去る6月に静岡市の本山海長寺で総会を開催し、中條日有貫首が記念講演をした。翌日、浜松市内の明善翁記念館を訪問し、菩提寺である妙恩寺の墓前で参加者一同法味を言上して百回忌の供養を営んだ。
世の悩み苦しむ人びとに共感し、治山、治水事業を通して民衆の苦難を救い、罪を犯した人には更生の道を開き、社会奉仕、公共の事業に全生涯を捧げた明善翁。まさに不言実行の人である。今日、没後100年にあたり、その崇高な志と行動力に学んで寺院も僧侶も日々の信仰生活と共に、それぞれの立場で社会的な活動に取り組むことを期待したい。
法華経に説く「この人世間に行じて、よく衆生の闇を滅す」との菩薩行の如く、世のため人のために身をもっての実践が待たれよう。(論説委員・古河良晧)

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