2014年3月1日
食から考える豊かさの功罪
食品の偽装が大きな社会問題になり、ようやく落ちついたというときになって冷凍食品への農薬混入事件が発生した。それが解決しないうちに今度は全国でノロウイルスの感染が広がった。中国では毒入り冷凍餃子事件の犯人に終身刑の判決が下った。
ふだん口にしているものが信頼できないとなれば、事は重大だ。事故なら再発防止に努めていただきたいし、人為的なものとなれば言語道断である。誰もが厳しく対処してほしいと願うだろう。
ところで、芝海老と偽ったバナメイエビは立派な食材なのだそうだ。味も良く、料理してあれば芝海老との違いはわからないという。それを芝海老だと偽った事が問題になった。最初からバナメイエビと書けばよかったがそれでは注文がこないのだろう。
スズキと表記されていた白身の魚が実はナイルパーチというアフリカで採れる淡水魚だったという例もあった。こちらは白スズキと表していた店もあるらしい。スズキの一種かと客に思わせるためだろう。
このナイルパーチはかなり前から日本のファミリーレストランなどで調理されていた。そこでは単に白身魚として表記されていたから偽装にはならない。この魚は淡水魚にもかかわらず生臭さがなくておいしい。かなりの量が消費されているようだ。スズキなどと書かなくても、その味で十分に売れたはずだ。嘘はいけないが産地や名前にこだわる客の側に責任はないのか。日本人の食に対する奢りが隠れているようにも見える。
ナイルパーチはかつて、アフリカの人たちの大切なタンパク源だった。湖の周りにはドラム缶を半分に切った簡易バーベーキュー調理器で魚を焼く店が林立していた。付近の人たちはいつでもおいしいナイルパーチを食べることができた。
ところが、その味を知った先進国が買い付けに来るようになると値段は跳ね上がり、地元の市場では流通ができなくなった。その結果、目の前の湖で豊富に採れるにも関わらず、地元の人々の口に入らなくなって久しいという。
30年以上前から、ベトナムでは捕れたエビの殆どを冷凍にして香港経由で日本に輸出していた。日本人の海老好きは桁外れだ。日本の消費量の九割以上が輸入物となっている。その流通過程にいる一部の人たちは潤うだろうが、ここでも値が上がり地元の人たちには手の届かない食材になってしまった。当時、ホーチミン市の市場には身の部分を冷凍にされて残った頭部だけが並んでいた。ベトナムの人たちの食料を金で奪い取っていたのと同じだ。
他方、和食が世界無形遺産に登録されるという明るいニュースもあった。しかしここにも複雑な思いが残る。和食といえども食材の多くを輸入に頼っているからだ。
日本人が毎日残す残飯の質と量が5百万人のアジアの人たちの食料に匹敵するとユニセフが報告したのはこれも30年前のことだ。この頃から既に私たちは飽食に慣れてしまっていたようだ。
当時から、そして今もなお世界の6割の人たちが何らかの飢餓状態にあるという事を忘れてはならない。名前や産地がどうであれ、おいしくいただけるものに常に感謝するという生き方をしたい。
「人の食を奪う者は短命の報を受く」
宗祖のお言葉にあったと記憶している。
(論説委員・伊藤佳通)