論説

2020年3月20日号

新型コロナ、見えない 脅威に立ち向かう

新型コロナウイルスにより世界中で出入国の制限が始まった。日本でも中国・韓国の発効済みビザを無効とし、イタリア、イランなど諸外国からの入国制限を強化した。不要不急の外出自粛が叫ばれ、各種テーマパークは臨時休園、大規模イベントの延期や中止が続いている。多くの公的催しが延期や中止され、公立小中学校の大半が春休みまで継続して休校となった。大相撲春場所は無観客での開催、春のセンバツ高校野球は史上初めて中止となった。
政府の専門家会議は「爆発的感染拡大には進んでいない」と発表(3月9日)、感染拡大防止の具体策として「①クラスター(感染者集団)の早期発見と対応 ②イベントの自粛や学校の休校を継続 ③重症者の集中治療体制の早期確立 ④密閉空間での換気・密集を避ける・近距離会話の回避」などを提示、翌10日には、新型コロナウイルスでの「緊急事態宣言」を可能にする法案を閣議決定し、13日の成立後、14日に施行された。
その最中、イタリア北部ミラノのアレッサンドロ・ヴォルタ高校のドメニコ・スキラーチェ校長によるメッセージが注目された。新型コロナウイルスで休校中の生徒へ文豪マンゾーニの『いいなづけ』の一節を引用したものだ。この本は17世紀イタリアでペストが流行した時、外国人を危険だと思い込んだり、感染源は誰だと捜索したり、根拠のない噂話や無意味な治療法の横行、必需品を買い占める人たちの様子を描写している。
スキラーチェ校長は言う「…私は専門家でないので強制的な休校という当局の判断は評価できない。ただ、この判断を尊重しその指示を子細に観察しよう…生徒諸君、冷静さを保ち、集団パニックに巻き込まれないよう予防策を講じつつ、いつもの生活を続けよう。せっかくの休みには散歩や良質な本を読もう。体調に問題ないなら家に閉じこもる理由はありません…人びとが不安になっている時、話を聞いただけでも見た気になってしまう。今も昔も感染拡大のスピードを止める壁は存在しません。私たちには見えない敵から脅威を感じた時、仲間さえ侵略者と見なしてしまう危険があります。集団の妄想に惑わされず、冷静に判断し、予防を十分して、いつもの生活をしてください…では近いうちに学校で皆さんをまってます」(各報道から)
注目するのは「社会生活や人間関係を汚染する人たちこそ、新型コロナウイルスがもたらす最大の脅威」という指摘だ。日本でも連日ウイルス感染が広まる中、マスクが通常価格の数十倍でネット販売され、転売禁止が法整備された。「花こう岩が効く」「26~27度で死滅」「納豆や漢方薬が効く」「トイレットペーパー・ティッシュが品薄」など真偽不明の情報やデマが横行している。見えないウイルスの脅威を感じると「仲間さえ侵略者として脅威に感じる危険がある」の指摘通りだ。だとすれば、ウイルスそのものより、人間同士が敵になりかねない。今も昔も変わらぬ世相だと痛感する。
彼岸会を迎えた。迷いの此岸から悟りの彼岸を目指す六波羅蜜の修行期間だ。お題目の精神で世の中の平和のために、不足している物資を提供したり、共感の心を持とう(布施波羅蜜)、不要な外出はできるだけ控えよう(持戒波羅蜜)、みんなで我慢する心を持とう(忍辱波羅蜜)、平和への願いを貫こう(精進波羅蜜)、焦らず平常心を保とう(禅定波羅蜜)、集団的妄想や扇動的デマを見極める見識を持とう(智慧波羅蜜)。お題目信仰を背景とした六波羅蜜の実践が、安穏な社会づくり・人づくりの一助となることを願っている。(論説委員・奥田正叡)

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2020年3月10日号

結実活動期を迎えた立正安国・お題目結縁運動

■ローマ教皇の来日
38年ぶりに来日したローマ教皇は、昨年11月末に3泊4日の日程で風の如く来て、風の如く去っていった。しかし来日中に巻き起こした旋風は大きなものであった。
長崎では爆心地公園に立って平和を祈り、「核兵器に関するメッセージ」を発表し、広島では平和公園で、「平和のためのつどい」を実施し、「平和へのメッセージ」を発表した。
その中で教皇は、「世界では何百万という子どもや家族が、人間以下の生活をしいられている中で、武器の製造や商いに財が費やされていることは、これは途方もないテロ行為である」と言っている。
さらに広島では、「一瞬の閃光と炎によって消された亡き人びとのすさまじい叫び声が聞こえてくる」と言い、その声に合わせて、「戦争はもういらない! 兵器の轟音はもういらない! こんな苦しみはもういらない!」と祈ったとある。
東京ドームでの大規模な祈りの会には、5万人の人びとが参加したと報道された。
教皇の日本での一貫した主張は、核兵器をなくして平和な世界を実現するために、世界中の人びとが参加することを呼びかけていることであった。
日本が率先して世界に訴えていかなければならない核兵器廃絶に、日本はもっと真剣にならなければならない。
■NPT再検討会議
ローマ教皇の言動に何かを感じた人は多かったのではないか。国連に提出する「核廃絶」の署名運動にたくさんの人びとが参加してくれている。
今年の4月に国連では、5年ごとに開かれる「NPT(核兵器不拡散条約)再検討会議」が開催される。
2017年に採択された「核兵器禁止条約」の後を受けて、「核兵器廃絶」への道筋をつけていかなければならない会議である。
しかしこのたび米国では、「小型核」を装備した潜水艦を配備したと発表している。さらに核関連予算を大幅に増額したとも伝えられている。世界の軍拡競争が起きることが何よりも心配である。
立正平和の会では、今度のNPT再検討会議に、宗務総長の親書と「核兵器のない平和な社会を目ざす」署名を国連事務総長に提出し、ニューヨーク平和行進に参加するために準備をすすめている。この署名運動に積極的に参加していこう。
■立正安国・お題目結縁運動
『立正安国論』は有名な言葉から始まる。
「旅客来たりて嘆いて曰く。近年より近日に至るまで、天変、地夭、飢饉、疫癘、遍く天下に満ち、広く地上に迸る」とある。
鎌倉にあって、天災地変、疫病などの災厄を目の当たりにした日蓮聖人は『安国論御勘由来』に、「正嘉元年八月二十三日戌亥の時、前代に超えたる大地震、同二年八月一日大風。同三年大飢饉、正元元年大疫病。同二年四季に亘って大疫已まず。万民既に大半に超えて死を招き了んぬ」とある。
日蓮聖人の出世の本懐は、私たちの生きるこの娑婆世界を浄仏国土と化することにある。つまり立正世界平和・立正安国である。いま聖人ご在世の時と同じく天変地変が相続き、疫病が蔓延している。さらに今は絶対悪の核兵器が存在している。その中で私たちは日蓮聖人と同じく、法華経のご本仏の絶対平和のみ心に生きていくことが要請されているのではないか。
立正安国・お題目結縁運動の結実活動期を迎えて、お題目を声を惜しまず唱えていこう。
(論説委員・刀貞如)

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2020年3月1日号

共同体としての子育てを

 今年1月15日、NHKニュースで島根県松江市の小学校が「ノー宿題デー」を試行するとの報道があった。
 塾などの習い事やスポーツ少年団やクラブ活動で何かと忙しい子どもたちに対し、学校からの宿題をなくすことによって、時間と気持ちの余裕を持たせ家族旅行や団欒の機会を作り、家族とのふれ合いの時間を増やすのがねらい。3月までを試行期間と定め新年度からの実施を目指しているという。
 報道を聴きながら、東京都妙倉寺布教所の山田恵大師が自身の経験談として語られた話を思い出した。
 ある学校の同学年2クラスのA学級では毎日、山のような宿題が出され、B学級では全く宿題がない。当然、A学級の子は遊びもできず帰宅後、すぐに宿題にとりかかる。一方、B学級の子は、放課後もたっぷり遊んでいる。2クラスの保護者が宿題の有無を知り問題視。保護者たちが学校に詰め寄り事態は紛糾したという。関係者に呼ばれた山田師が、それぞれの担任の話を聞くことを提案。
 A教諭「勉強は習慣です。宿題に取り組むことによって学びの習慣をつけさせたい」
 B教諭「勉強は自主的に行うのが大切。あえて宿題を出さず、自ら学ぶ気持ち、自発心を待っています」
 山田師は「仏教は智慧の教えです。【智】とは違いを見つける働き、【慧】とは共通を見つける働きです。A・B教諭それぞれの『勉強』に対するお考えを理解し、保護者として先生と子どもたちを支援できる方法はないでしょうか」と諭したのだった。
 多様な価値観が許容される現代社会に在って、私たちは、しっかりと現実の有様を把握し、いま大切なこと、やるべきことが何なのかを熟慮し対応すべき時ではなかろうか。
『子ども・若者が変わるとき―育ち・立ち直りを支え導く少年院・少年鑑別所の実践―』は、法務省矯正局から平成30年に編集出版された書籍である。
 本書は、非行少年などの立ち直りや育て直しに向け、少年院や少年鑑別所で心理学・社会学など、人間科学の専門知識と技術を活用し、教育指導を行う法務教官や法務技官8人が分担執筆した少年矯正の現場で培われた知見の集積といえる書で、子育てに悩む保護者や色々な場面で少年の指導に関わる人に薦めたい1冊でもある。
 少年鑑別所入所者の約8割は家族と同居していたものの、整理整頓ができないばかりか、箸の使い方や歯磨きの仕方などの基本的な生活習慣さえも身についていない者が少なくないという。その一因として、核家族の貧困を挙げる。貧困ゆえに家族間の不和が生じ親自身、社会的・心理的に孤立し、結果として子育てに不調をきたし育児放棄や児童虐待につながると指摘。寒々しく安心感が得られない家庭が非行と深く関係すると述べられている。
 啓蒙思想家で教育者であった福沢諭吉は「一家は習慣の学校なり、父母は習慣の教師なり」と語った。また東洋思想家である安岡正篤は「父は子供の敬の的、母は愛の座」とも遺している。今日、子どもたちが置かれる環境は、先人の語とは異なる世界のようにすら感じる。
 季は3月、まもなく新しい学年を迎える子どもの保護者、あるいは子育て世代に対し、日蓮聖人ならば、どのようなご教導をなさるであろうか。宗祖降誕八百年を目前に臨み、私たちは共同体としての子育ての在り方を模索し、取り組みを始める時でもある。
(論説委員・村井惇匡)

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新年のご挨拶。

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    中尾堯著
    日蓮宗新聞社
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  • 日蓮聖人―その生涯と教え―

    日蓮宗新聞社編
    日蓮宗新聞社
    定価 826円+税

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