2020年3月1日
共同体としての子育てを
今年1月15日、NHKニュースで島根県松江市の小学校が「ノー宿題デー」を試行するとの報道があった。
塾などの習い事やスポーツ少年団やクラブ活動で何かと忙しい子どもたちに対し、学校からの宿題をなくすことによって、時間と気持ちの余裕を持たせ家族旅行や団欒の機会を作り、家族とのふれ合いの時間を増やすのがねらい。3月までを試行期間と定め新年度からの実施を目指しているという。
報道を聴きながら、東京都妙倉寺布教所の山田恵大師が自身の経験談として語られた話を思い出した。
ある学校の同学年2クラスのA学級では毎日、山のような宿題が出され、B学級では全く宿題がない。当然、A学級の子は遊びもできず帰宅後、すぐに宿題にとりかかる。一方、B学級の子は、放課後もたっぷり遊んでいる。2クラスの保護者が宿題の有無を知り問題視。保護者たちが学校に詰め寄り事態は紛糾したという。関係者に呼ばれた山田師が、それぞれの担任の話を聞くことを提案。
A教諭「勉強は習慣です。宿題に取り組むことによって学びの習慣をつけさせたい」
B教諭「勉強は自主的に行うのが大切。あえて宿題を出さず、自ら学ぶ気持ち、自発心を待っています」
山田師は「仏教は智慧の教えです。【智】とは違いを見つける働き、【慧】とは共通を見つける働きです。A・B教諭それぞれの『勉強』に対するお考えを理解し、保護者として先生と子どもたちを支援できる方法はないでしょうか」と諭したのだった。
多様な価値観が許容される現代社会に在って、私たちは、しっかりと現実の有様を把握し、いま大切なこと、やるべきことが何なのかを熟慮し対応すべき時ではなかろうか。
『子ども・若者が変わるとき―育ち・立ち直りを支え導く少年院・少年鑑別所の実践―』は、法務省矯正局から平成30年に編集出版された書籍である。
本書は、非行少年などの立ち直りや育て直しに向け、少年院や少年鑑別所で心理学・社会学など、人間科学の専門知識と技術を活用し、教育指導を行う法務教官や法務技官8人が分担執筆した少年矯正の現場で培われた知見の集積といえる書で、子育てに悩む保護者や色々な場面で少年の指導に関わる人に薦めたい1冊でもある。
少年鑑別所入所者の約8割は家族と同居していたものの、整理整頓ができないばかりか、箸の使い方や歯磨きの仕方などの基本的な生活習慣さえも身についていない者が少なくないという。その一因として、核家族の貧困を挙げる。貧困ゆえに家族間の不和が生じ親自身、社会的・心理的に孤立し、結果として子育てに不調をきたし育児放棄や児童虐待につながると指摘。寒々しく安心感が得られない家庭が非行と深く関係すると述べられている。
啓蒙思想家で教育者であった福沢諭吉は「一家は習慣の学校なり、父母は習慣の教師なり」と語った。また東洋思想家である安岡正篤は「父は子供の敬の的、母は愛の座」とも遺している。今日、子どもたちが置かれる環境は、先人の語とは異なる世界のようにすら感じる。
季は3月、まもなく新しい学年を迎える子どもの保護者、あるいは子育て世代に対し、日蓮聖人ならば、どのようなご教導をなさるであろうか。宗祖降誕八百年を目前に臨み、私たちは共同体としての子育ての在り方を模索し、取り組みを始める時でもある。
(論説委員・村井惇匡)