オピニオン

2023年6月20日

法華経の行者

私たちは何のために生まれ出て、どのように生きれば良いのでしょうか。
法華経には、法華七喩の例え話が描かれています。その中の長者窮子の譬えは、長者(仏さま)の元を離れ放蕩三昧してきた子が、困窮した末に父と知らずにたどり着いた長者の家でまじめに働きだし、やがて長者が臨終の床でこの子が実子であることを明かすという内容です。私たちが本来の姿に戻るための、救いのプロセスが説かれています。
法華経を口で唱えたりしますが、具体的に、何を目標に生きればいいのでしょうか。法華経そのものには、法力があり、日蓮聖人のご遺文には、修行する場所が聖地であり、娑婆即寂光土となるのだと、厳格な行動規範が説かれています。経典やご遺文はテキストですが、どう実践すればいいのでしょうか。また法華経を信じ、体現している生きたモデルとなる〝法華経の行者〟を見たことがあるでしょうか。
私は、僧籍を取得する前の若い頃、もはや仏教は形骸化し、社会に対し葬儀や法事にしか役に立っていないのでは、と考えていた時期がありました。教学を説く学者はいますが、私自身が憧れ、「あんな僧侶になりたい」と思える理想の僧侶との出会いがありませんでした。
しかし、1991年、チェチェン紛争でロシア軍が日本人僧侶を逮捕・投獄したというイギリスBBCの報道が飛び込んできて「寺沢潤世」という日本山妙法寺僧侶の名前を耳にした時に、幼かった私を自転車の後ろに乗せて、地元小学校の校庭で遊んでくれた5歳年上の兄のように慕った人だとの記憶が蘇りました。日本に一時帰国した際に会って、根底に流れる哲学に触れた瞬間、生きて実践している法華経の行者に、やっと巡り会えたという思いがしました。
法華経は死んでいない、日蓮聖人の法灯は消えていないと確信した再会でした。寺沢師には、左の人差し指の第2関節から上がありません。事故かロシア軍の拷問を受けてなくしたのかと聞くと、「英国政府に仏舎利塔と寺院を造っていただいた時に、仏さまに差し上げる物が何もなかったので、私の指を差し上げました」と灯明の代わりに自身の指を燃やしたことを打ち明けました。
日蓮聖人は、「仏説て云く、〝七宝を以て三千大千世界に布き満るとも、手の小指を以て仏経に供養せんには如かず〟取意。雪山童子の身をなげし、楽法梵志が身の皮をはぎし、身命に過ぎたる惜き者のなければ、是を布施として仏法を習へば、必ず仏となる」と述べておられます。
湾岸戦争時には、地雷原のバグダッドで、チェチェン紛争にはチェチェンで、ロシアのウクライナ侵攻時にはキーウで、平和な日本ではなく危険な紛争地で、今でも太鼓をたたきながら唱題行脚をしています。
何度か会う機会があり、前々から気になっていた頭陀袋の中身を見せてもらいました。中には、うちわ太鼓と桴、メモ帳、ボールペン、時計、パスポートだけが入っていました。その時も「これが気になられているのでしょう」と差し出されたものを見てみると、そこには、財布や通帳がないのです。「どうやって、食べているのですか?」と思わず子どもじみた質問をした時、「貴方が、私に食事をご馳走しているではないですか」がその答えでした。
「命を仏にまいらせて仏にはなり候なり」「身は不浄なりとも、戒徳は備えずとも、南無妙法蓮華経と申さば必ず守護したもうべし」の聖語の響きと、探し求めていた法華経で今を生きている僧侶との出会いに自然に流れ出た法悦の涙を今でも忘れません。
(論説委員・高野誠鮮)

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