論説

2023年6月1日

「共に在る」生き方・逝き方・寺院のあり方

 筆者が預る寺院の檀徒S氏は『日蓮宗新聞』の愛読者で、掲載文章で理解できない語句があれば、すぐに質問をしてくる人である。寺の年中行事だけでなく管区主催の研修会も皆勤で、祖山や霊跡由緒寺院へも時間をつくって登詣参拝し、月例金曜講話へも足繁く聴講に出向いていた。
 事情により10年前に土地屋敷、車などの財産を失い生活保護を受けることになり、寺の近所から遠く離れたアパートへ単身転居。それでも小1時間かけて自転車で寺へ通っていた。
 彼は毎月1、2回は寺へ電話を寄こしていたが、今年の2月に入ってからは1度の連絡もなく気になっていたところ、3月の彼岸、彼の訃報が届いた。家賃滞納のため福祉課職員と大家が部屋を訪れると、彼は布団の上で息を引き取っていたという。死後推定30日以上を経ての発見であった。享年61。火葬後、行き場のないご遺骨は寺でお預かりした。
 筆者は、令和4年12月20日号の論説で「孤立の予防とつながりの回復」と題し、愛知教育大学の川北稔准教授の調査研究を紹介し依存先の分散を記し、私という存在が地域共生社会の一員としてたとえ1人であっても見守りつながり続けることができるならば「いのち」を守ることになるのではないか、と論を結んだが、S氏の逝去を受けて己の無力さと至らなさに忸怩たる思いである。
 厚生労働省は、孤独死を予防できる地域社会を作るための取り組みとして2008年「高齢者が1人でも安心して暮らせるコミュニティづくり推進会議」を開催。2009~11年には「悲惨な孤独死・虐待などを一例も発生させない地域づくり」を目的として、安心生活創造事業を実施し今日に至るが、大きな成果は見られない。
 孤独死統計として一般社団法人日本少額短期保険協会「孤独死対策委員会」が、2021年6月に『第6回 孤独死現状レポート』を発表。2015年4月~21年3月までの孤独死データを集積し実態を分析して、問題点やリスクなどをまとめている。
 『孤独死現状レポート』における孤独死の定義は「自宅内で死亡した事実が死後判明に至った一人暮らしの人」である。孤独死者の平均年齢は男女ともに約61歳。高齢に到達しない年齢で亡くなっている人の割合は50%を超える。今後、孤独死問題はさらに加速すると専門家は指摘する。
 他方、2025年には在宅医療を利用する人が100万人を超えるとの推測もある。これは在宅看取り時代の到来といえる。(2023年2月1日・日蓮宗宗務院発行・日蓮宗現代宗教研究所編集『〈現代教化シリーズ3〉「苦」に寄り添って』コラム④)
 単身世帯が増えこれに伴う孤独死の増加、少子高齢多死社会におけるさまざまな現象の中で「共に在る」生き方と逝き方が問われているように思えてならない。
 「〈死〉は一人では完結しない」とはフランス哲学者である西谷修氏の著書『不死のワンダーランド』の一節である。小寺の檀徒S氏の本葬儀を兼ねた49日忌には役員として共に時を過ごした総代・護持会・世話人に声掛けをして、読誦唱題し彼の霊山往詣と魂の安穏を祈念した。集まった人たちは、在りし日の彼の姿を静かに語り死を悼んだ。
 ギリシャ語には時刻など客観的時間を表わすクロノス、特別な時や瞬間など主観的な時間を表わすカイロスがある。寺院が檀信徒さらには地域社会と「共に在る」関係性において示唆を与える語句ではあるまいか。
    (論説委員・村井惇匡)

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